論風

新型コロナと文明の危機 孤立のない社会の構築を

 ギリシャ哲学は「人間は共同体(ポリス)的動物」だというが、その核心は「思いやり・共感」にある。たしかに科学技術文明は人類に多くプラスをもたらしたが、しかしその半面で、この人間の本質を奪いつつある。特急列車が車窓からの景色を奪い、沿線の人々の生活を思いやる意識を薄めた。スマホが面と向かう会話の機会を奪い、同情や共同体意識を薄めている。(早稲田大学名誉教授・田村正勝)

 今日では新型コロナウイルス感染症により人々の不安感情が拡大し、これに伴って感染者の家族や、感染者と接触する医療従事者やその家族に対する思いやりのない異常な仕打ちが出ている。したがって医療関係学会も当該の労働組合も、その深刻さを訴えているが、これは無知と人情に欠ける社会的病理だ。

 世界各国で深刻化

 日本ばかりでなく共感・思いやりの希薄化、それゆえの人々の孤独化が世界的に深刻となってきた。英国はカルヴィニズムもしくは英国国教会の教義に由来する、個人主義が強い国民性だ。しかしここでさえ思いやりの希薄の潮流から多くの国民が孤独に悩む。ついに政府は「孤独担当相」と「自殺予防担当相」を置き、さらに国家統計局の「孤独の指標」を制作している。

 また、アメリカン大学(首都ワシントン)では、大学生の39%が「鬱と不安」の症状という調査結果だ。米疾病対策センター(CDC)によると、2006年から16年の間に、10~17歳の自殺率が70%、黒人に限ると77%それぞれ増えたという。18年の自殺者は4万8000人。

 日本も極めて深刻で、1998年からの14年間に、自殺者数は年間3万人超だ。しかもこの3万人は、自殺遂行から24時間以内に亡くなった人数であり、その後に亡くなった人も含む「年間総自殺死亡者数」は5万人を超えた。テロも戦争もない現在の日本で、14年間に70万人以上が自ら命を断った。

 テレワークとボランティア

 このように、思いやりの希薄化が、テレワークや人工知能(AI)による“仕事の剥奪”などでさらに進む。しかし既にこれらに対する反省も生じている。例えば米国ではIBMやヤフーがテレワークを廃止し、グーグル、アップル、フェイスブックなどはテレワークに積極的でなく、普段はオフィス勤務する社員が一般的だという。加えて新オフィス、無料の社員食堂、車の点検サービス、多様なサークル活動を提供し、出社したくなるオフィス作りをしている。

 他方で今回のコロナの感染拡大では、テレワークもやむを得ないが、これは例外的な事態だと認識すべきだ。テレワークに走ると思われがちな米国の巨大IT企業の、このような否定的な態度からも明らかだ。日本でも今回のコロナ在宅勤務社員の約6割が「効率の低下」を表明し、効率上昇という社員は約3割に過ぎない(日本生産性本部5月調査)。

 しかし介護や育児などを抱える社員にとって、テレワークや在宅勤務は重要ゆえ、この双方のバランスが大切。とくに介護離職者が年間約10万人、その約8割が女性という日本の実情では、この点に関するテレワークの普及が必要だが、彼らが孤立しない方法をも工夫すべきである。

 他方で日本でも阪神淡路大震災以来、ボランティア活動が活発になってきた。震災や豪雨あるいは台風や津波によって生活基盤を奪われた人々に対する「思いやり」が、さまざまなボランティアを生んだ。今回の新型コロナに関しても、多くのボランティアが貢献している。

 ボランティア活動は2019年4月時点で19.4万グループの707万人、個人のボランティアを合わせると合計880万人に達している(全国社会福祉協議会)。これは「危機にひんしている近代文明」の一条の光であり希望である。

【プロフィル】田村正勝

 たむら・まさかつ 早大大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。同大教授を経て現職。一般社団法人「社会科学総合研究機構」名誉会長。74歳。

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