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米GDP、最悪の32%減 民間主導が景気回復の鍵

 今年4~6月期の米国の実質国内総生産(GDP)速報値は、年率換算で前期比32.9%減となった。2008年に起きたリーマン・ショック時を大きく下回り、1947年以降で最大の減少幅となった。戦後経験したことのないレベルの景気後退といえる。

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出規制の影響から、GDPの約7割を占める個人消費が34.6%減少したほか、世界的な感染拡大から輸出が64.1%減ったのが響いた。

 月次の米経済活動の水準を見ると、5月以降は緩やかに持ち直しつつある。防疫措置が徐々に緩和される中で、大規模な財政出動などによる景気の下支え効果も大きい。

 対コロナウイルスの関連法による給与保障プログラムや失業給付の大幅増額などにより、4~6月の連邦政府支出は前年同期と比べて、1兆5000億ドル(158兆円強)増加している。

 今後の米国経済はどうなるか。全国的なロックダウン(都市封鎖)という厳しい措置を講じても感染の抑え込みに失敗した。このため、ワクチンや治療薬が普及するまでコロナと共生せざるを得ない「ウィズコロナ」期において、防疫と経済活動の両立を図る方向にかじを切ったといえる。

 7~9月期の成長率はプラスに戻る可能性が高いが、実質GDPの水準で見ると、4~6月期の落ち込みの4分の1程度を取り戻すにすぎず、経済状況の厳しさに変わりはない。

 10~12月期以降も防疫の観点からサービス業を中心に、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保が求められ、売り上げ減少の長期化を余儀なくされるだろう。

 産業別にみると、映画やスポーツなど娯楽業はコロナ発生前の5割程度、飲食・宿泊業や輸送業でも7割程度の売り上げにとどまることを想定しておく必要がある。2020年通年の米国経済は、前年比6%程度のマイナス成長を見込む。

 GDPの水準がコロナ前の水準に戻るのは、早くても22年以降になるだろう。リーマン・ショック時でも回復に2年を要した。回復時期を早める可能性があるとすれば、ワクチンの普及だ。米政権は21年初めまでに全国民にワクチンを供給すべく100億ドルを投じているが、有効なワクチンが短期間で開発できるかどうかは不透明だ。

 世界のGDPの24%程度を占める米国経済の後退は、同国向け輸出や米現地法人の売り上げ減を通じて、日本を含む世界経済全体の下振れ要因となる。景気低迷が長期化すれば、金融市場の不安定化要因にもなる。

 民間部門が主導的役割を果たすことが、米景気回復の鍵になる。コロナ禍の下、所得保障や資金繰り支援など政府の資源配分への関与が総じて拡大しているが、中長期的には持続可能ではない。

 シカゴ大の研究によると、対コロナ関連法に基づく失業給付の上乗せにより、米就業者の7割は失業時の受給額が以前の所得を上回る。手厚い保障は復職への意欲を低下させ、政府への依存を強めかねない。

 ウィズコロナ期の長期化は既存のビジネスに逆風となるが、生活様式などの変化が新たな市場を生む側面も大きい。公的支援の段階的縮小により民間経済活動の自立を促しつつ、新たな付加価値創出を支援することが求められる。

【プロフィル】森重彰浩

 もりしげ・あきひろ 三菱総合研究所主任研究員。1981年生まれ、兵庫県出身。大阪大大学院経済学研究科修了。マクロ経済、政策分析が専門。

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