中小企業へのエール

言葉が大きく独り歩き… もう忘れよう「お客様は神様です」

 「おもてなし」の在り方

 京都先端科学大、旭川大客員教授・増山壽一

 「お客さまは神様です」この言葉が生まれたのは1961年。時の演歌歌手・三波春夫さんが宮尾たか志さんとの対談で発した言葉が大きく独り歩きし、今に至った言葉である。芸人として芸を客に披露する際に、客が神様であるかのように思って神聖な気持ちで臨まなければならないというのが彼の真意だったようだ。しかし、それ以前に、この言葉自体がなかったことにまず驚いた。

 そういえば私が幼い頃、町の駄菓子屋さんなどの販売店で働いている人たちは、今よりもっと偉かったような気がする。ぬかずくような日本的なサービスは、決して日本古来のものではないのである。それが、時あたかも高度経済成長真っただ中。大量生産・大量消費の時代にあり、客へのサービスの質の高さで競争する風潮がもてはやされ、全ての企業経営は客のためにあるとの“尖った”日本的な考えへと変貌していった。そんなことをいうと「アメリカにも『カスタマーファースト(顧客第一主義)』という考えがあるのでは」と思う方もいるだろう。

 ただ、顧客第一主義は、客の目線に立って経営することが企業利益向上となり、株主や従業員への利益還元や地域経済への貢献につながるという考えからきている。客の目線で考えることは、日本のようにそれ自体が「目的」ではなく、あくまで「手段」なのである。

 現在、日本のサービス業は人手不足、離職率の向上が大きな問題となっている。また新型コロナウイルスの影響により、人との接触が多い業界を懸念されている方も多いと聞く。そして、客が求める日本的なきめ細かいサービスをするとそれに対応できる熟練した従業員が必要になりコストは大幅にかさむ。

 そんな中、手塩にかけて育てた従業員がようやく現場に立ったとき、些細(ささい)なことで目くじらを立てるモンスター客が従業員に怒鳴り、執拗(しつよう)に苦情を言い、SNS(会員制交流サイト)で発散し、揚げ句のはてには土下座まで強要させる。そして、その従業員は辞めていくのである。

 もう「お客さまは神様」という言葉を忘れよう。「おもてなし」の在り方も変わっていいはずだ。既に日本は少子高齢社会へと向かっている。人に何かを欲する前に、「神様のような客」といわれるようにまず自分に何ができるかを考えてみる。このような寛容な社会こそがベンチャーを生み育てるのである。

【プロフィル】増山壽一

 ますやま・としかず 東大法卒。1985年通産省(現・経産省)入省。産業政策、エネルギー政策、通商政策、地域政策などのポストを経て、2012年北海道経産局長。14年中小企業基盤整備機構筆頭理事。旭川大学客員教授。京都先端科学大客員教授。日本経済を強くしなやかにする会代表。前環境省特別参与。著書「AI(愛)ある自頭を持つ!」(産経新聞出版)。57歳。

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