外食大手のコロワイドが定食チェーンの大戸屋ホールディングス(HD)に対して行っているTOB(株式公開買い付け)が8日に2度目の募集期限を迎える。今回のTOBは大戸屋HD経営陣が反対を表明している敵対的TOB。コロワイドが示した買い取り価格は大戸屋HD株の7日の終値(2954円)を上回っているが、約6割を占める個人株主の動きは読み切れず、攻防の勝敗は予断を許さない。
「個人投資家の思惑が大戸屋HDの株価の値動きに反映されている」。証券関係者は最近の株価の動きをこう分析する。
コロワイドは大戸屋HD株式19%超を所有する筆頭株主だ。7月9日、TOB後の持ち株比率を45~51.32%まで引き上げて大戸屋HDの経営陣を刷新すると表明。TOB買い取り価格は直近の株価水準を45%超上回る1株3081円とした。大戸屋HDの株価はその後、2700~2900円で推移し、投資家は市場で大戸屋HD株を買ってTOBに応募すれば差額が利益となる形となった。
しかし当初の締め切りだった8月25日、コロワイドは「買い付け予定の下限に達しないことが明らかになった」と発表。TOB成立下限を所有分含め40%に引き下げ、募集期間を9月8日に延長した。
TOBの成立を難しくした背景にあるのは大戸屋HD株主に占める個人株主の多さだ。大戸屋HDの個人株主には大戸屋の店舗の常連客であるファンも多く、敵対的TOBへの反発も強いとみられる。またTOBへの応募には買い付け代理人のSBI証券に口座を開く必要があるが、この手間が個人投資家のハードルになっている可能性もある。
さらにコロワイドの思惑通りにTOBが進んでいないことで、今回の期限延長でもTOBが成立しない筋書きもあり得るとの思惑が浮上。「個人投資家はTOB価格の引き上げや、TOB成立後も主導権の取り合いで株価が上がるなどの期待を持った」(証券関係者)ともみられている。
大戸屋HDが8月に公表した2020年4~6月期連結決算は以前からの業績不振に新型コロナウイルス感染拡大の影響が加わり赤字が拡大。純資産はわずか3カ月で半減、財務の健全性を示す自己資本比率も適正水準下限とされる20%を割り込み、17%へ急降下した。コロワイドは「追加の減損の発生可能性も考えられ、財政状態に非常に憂慮している」としてTOB成立を急ぐ。
一方、大戸屋HD経営陣は個人株主に対してTOBに応募しないよう手紙や電話で呼びかけ、TOB延長後の8月28日には再度の反対表明を取締役会で決議した。6月の定時株主総会でも個人株主の意見が割れたことなどを踏まえると、TOBの成否は依然不透明だ。(日野稚子)
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■大戸屋ホールディングス(HD)の経営体制をめぐる動き
2019年 10月 コロワイドが大戸屋創業家から株を取得、筆頭株主に
20年 4月 コロワイドが大戸屋経営陣刷新のため、株主提案を公表
5月 大戸屋HD経営陣、株主提案への反対意見を表明
6月 大戸屋HD定時株主総会で会社側提案を可決し、コロワイド株主提案を否決
7月9日 コロワイド、大戸屋HDの株式公開買い付け(TOB)を公表
7月10日 大戸屋HD株へのTOB開始
7月20日 大戸屋HD経営陣、TOBへの反対表明。敵対的TOBに
8月25日 コロワイド、TOBの延長を公表
8月28日 大戸屋HD経営陣、再度のTOB反対表明
9月8日 コロワイドによる大戸屋HD株TOBの締め切り日