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総務省はなぜ拙速な規制に走るのか ふるさと納税敗訴、携帯料金改革も不発

 【経済インサイド】

 総務省で“失策”が続いている。インターネットの交流サイト(SNS)などで誹謗(ひぼう)中傷の発信者を特定する新たな裁判手続きで、表現の自由や通信の秘密に抵触する懸念を有識者から指摘された。通信料の値下げを目指した携帯電話の制度改革は不発に終わり、ふるさと納税では法改正で制度から除外した大阪府泉佐野市に敗訴する結果となった。政治からの圧力などで、拙速な規制に走る総務省にOBからも苦言を呈する声が上がっている。

 総務省は7月、増加するネット上の誹謗中傷への対策として、発信者情報の開示を迅速化する有識者会議を開催。会議では、発信者の特定を容易にするために電話番号を追加することが主な柱だったが、委員から異論が相次いだ。中間報告書をとりまとめに際し、「議論が十分に尽くされているとはいえない」とする意見書が提出される異例の結果となった。

 ネットの誹謗中傷をめぐっては、発信者の特定が難しいことなどが課題で、総務省も検討を続けていた。5月下旬、フジテレビの番組に出演したプロレスラーの木村花さんがSNSで非難を受けた後に亡くなったことをきっかけに、総務省は規制強化に舵を切ったものの、委員から「早急だ」としていさめられた形だ。

 安易な規制に走る総務省に、あるOBは「ひと昔前までは、戦前に軍部などの検閲を許した苦い経験が色濃く残っていた」と警鐘を鳴らす。

 総務省は地方自治でもつまづいた。泉佐野市がふるさと納税制度から除外されたことを不服として総務省を訴えた訴訟で、最高裁は6月30日、高裁の判決を覆す判決を出したからだ。

 ふるさと納税は、居住地の自治体に納める税金を他の自治体が奪い合う制度ともいえ、自治体間格差を生む側面がある。度重なる大臣通知を受けながら、米アマゾンの商品券などで多額の寄付金を集める泉佐野市の対応について、総務省は「制度の存続を揺るがしかねない」と考えていたようだ。

 ただ、昨年9月に国地方係争処理委員会が除外決定の再検討を総務省に勧告しており、判決が出る前に方針を変えることもできた。なぜ、総務省はふるさと納税にこだわっているのか。

 理由の一つに政治との関係があるとされる。そもそも、ふるさと納税は菅義偉官房長官が総務相時代に創設した経緯がある。ある総務官僚は「なんとしても、制度を維持しなければならない」と心情を打ち明けた。

 政治や世論によって、急激な規制強化に乗り出すのは、昨年に法改正をした携帯電話の制度改革でも同様の構図だった。

 平成30年8月、菅氏が「携帯電話の料金は4割引き下げる余地がある」と発言したことで議論がスタート。総務省は、料金プランの多様化による自由競争で値下げを促す狙いで、端末購入を条件にした通信料の割引を禁止する「分離プラン」を義務化した。

 しかし、一部の携帯大手はすでに分離プランを導入しており、抜本的な料金値下げにはつながらなかった。さらに、端末割引について2万円を上限に規制したことで、携帯各社は端末販売に苦戦している。

 政治や世論に左右されるのは、総務省特有の事情だとする指摘もある。

 ネットの誹謗中傷やふるさと納税、携帯電話の料金などの社会的な課題は、国民の生活に直結しており、注目が高いからだ。とくに、携帯電話などのIT関連技術は日進月歩で法的な規制が追いついておらず、対応が急務であることも背景にある。前出のOB官僚は「総務省は『原理原則』を第一に考えなければならない」と釘を刺した。(高木克聡)

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