遊技産業の視点 Weekly View

ミャンマーのギャンブル事情

 □シークエンス取締役 LOGOSインテリジェンスフェロー・木村和史

 ミャンマーでは仏教徒が90%を占めるという宗教上の理由から1986年に制定された賭博法により賭博行為は全面的に禁止されてきた。1948年にイギリスからビルマとして独立した同国だが、軍部が政権を掌握する状況が実質的に2016年まで継続。少数民族が幅を利かせる地方行政については、ビルマ内務省の総務局地方事務所が中心となって統制を図ってきたが、国境沿いの少数民族と地方事務所の癒着もあり、外貨獲得を企図した規模も形態もさまざまな違法カジノが横行。少数民族が隣接する諸外国のスポンサー(中国、タイなどの外国資本)と手を結ぶといった運営形態も多く、黙認され続けてきた。

 現在のミャンマーはミャンマー連邦共和国が正式名称であり、連邦制で7つの地方管区と7つの州に分かれている。地方管区は全て国民の70%を占めるビルマ族の管区であり、州は大まかではあるがその他の民族ごとに構成されている。国の最高立法機関は連邦議会であり、これは民族代表院と人民代表院の二院制であり優劣はない。法案の起草は所管官庁(連邦政府)が行っているが、永らく続いた軍事政権下では立法過程も含め恣意(しい)的かつ不明瞭といわれてきた。近年のアウンサンスーチー以降の民主化で、既存の各種法律の見直しが進み、国内に違法カジノが横行するなど実態と乖離(かいり)した既存の賭博法についても俎上(そじょう)に上がると同時に、今後のインバウンドを見据えたホテル観光省と、外貨獲得と税収の向上に期待を寄せた内務省の思惑が一致し、2019年5月に新賭博法が成立した。これにより、あくまで賭博行為は違法だが、今後開設されるカジノ施設については外国人の入場をベースとして、ヤンゴンやマンダレーなど外国人が多く訪れる地域での主要ホテルに限り開場が認められることとなった。既存の違法カジノの処遇については、辺境地での少数民族の雇用と外貨獲得が見込まれることもあり、施設ごとに遡(さかのぼ)って許可を追認しているケースもあるようだ。

 今後、新賭博法のもとカジノを含むインバウンドがどのように展開されていくのか。隣接諸国との関わり含めて注視していきたい。

【プロフィル】木村和史

 きむら・かずし 1970年生まれ。同志社大学経済学部卒。大手シンクタンク勤務時代に遊技業界の調査やコンサルティング、書籍編集に携わる。現在は独立し、雑誌「シークエンス」の取締役を務める傍ら、アジア情勢のリポート執筆なども手掛ける。

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