ソフトバンクグループ(SBG)が英半導体開発大手アームの全株式を売却することを決断した。売却により同社の財務体質は大きく改善するが、アームは同社が保有する資産の中でも最も成長が期待できる銘柄の一つだった。高値で売却できるこのタイミングで手放すという判断は、SBGの投資会社としての側面が一層強まったといえるが、同社の成長戦略は見えにくくなっている。
「来年、再来年、一気に加速して伸びるというふうに私は確信しております」。今年6月に行われた株主総会で、SBGの孫正義会長兼社長はアームについてそう絶賛していた。
アームの製品は米アマゾンのサーバーに採用が決まるなど、出荷数が急伸。スーパーコンピューターの性能を競う世界ランキングで世界1位となった理化学研究所の新型スパコン「富岳」の心臓部の中央演算処理装置(CPU)にもアームの製品が使われており、「戦略的中核会社の一つ」(孫氏)と位置づけていた。しかし、8月の2020年4~6月期決算発表会で様相は一転する。孫氏がアームについて「興味があるというところも現れたので売却することも選択肢だ」と発言したからだ。
孫氏は近年、投資先企業の子会社化にこだわらず、柔軟な連携により相乗効果を生んで成長を目指す「群戦略」を掲げる。各社の自立性が尊重され自由な経営が行える一方で、グループとしてどれだけの相乗効果が得られるのかなどは見えにくくなっているのが実態だ。
今回の売却でも、SBGは「アームの長期的な成功に引き続きコミットし、当社の株主価値のさらなる向上に取り組む」とするが、売却後にSBGが手にするエヌビディアの株式は10%に満たない。どういった協力関係を築き、SBGの成長につなげようとしているのかについても明らかにされていない。このまま投資会社としての側面を一段と強めていくのか、SBGの経営は大きな岐路にある。(蕎麦谷里志)