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日頃の人事労務管理が危機状況で生きる

 となりの法律事務所 パートナー弁護士・沖崎遼

 危機状況下では、従業員の安全を図るために「勤務させない」という判断をしなければならないケースが多く出てくる。休業要請や給与カットの対応にも迫られる。売り上げが落ち込み、従業員の雇用を維持するのが難しくなったら、やむを得ず人員整理もあるだろう。この中で賃金カットは、従業員の生活に与える影響が大きい。

 しかし、人事労務管理が日頃から徹底されていれば、従業員が突発的かつ臨時的に賃金を下げざるを得ない状況を理解し、合意を得やすくなる。特に中小企業は、経営者と従業員との距離が近いメリットを最大限に生かすべきだ。

 労働法は、従業員の権利が手厚すぎると指摘されている。しかし、経営陣が人事労務管理を徹底し、従業員との良好な関係を構築していれば、従業員が権利を振りかざすことはなく、円満に解決できることが多い。労働環境の整備によって、従業員一人一人の生産性を上げることも期待でき、企業の利益向上につながる。人事労務管理をトラブル時のリスクヘッジとしてだけで捉えるのは誤りだ。

 もちろん、賃金のカットは従業員との合意が必要となる(労働契約法8条)。就業規則の変更なら、合意を得ずに行うことも法律上は可能(同9条、10条)だが、会社が従業員に対して一方的に不利な変更をするのは極めて例外的な場合に限られるべきだ。やはり従業員には丁寧な説明が求められる。

 経営者は、労働環境の状況を把握し、労働法に則して事前事後を問わずに是々非々の対応を行わなければならない。そのためには、外部の専門家の助言を柔軟に取り入れ、日々の人事労務管理を徹底する必要があるだろう。

 その際、労務の専門家は社会保険労務士(社労士)だ。社労士は、労働・社会保険諸法令に基づき、行政機関への提出書類や申請書などを依頼者に代わって作成する事務および提出代行をはじめ、備え付け帳簿、書類の作成などを行う。つまり、各企業の「労務管理」の基盤を作り、状況に応じて就業規則の変更や、賃金制度の構築、社会保険関係の手続きなどの相談・指導業務を行う。

 一方、弁護士は、その基盤の下で実際に企業が動き、従業員が働いている状況下で起きるさまざまなトラブル事案に対応する。

 中小企業経営者の方々からは「士業の区分けがよく分からないから、相談する先として正しいのか判断に迷う」という話を耳にする。社労士と弁護士のすみ分けを理解し、適切な対応を取ってほしい。

【プロフィル】沖崎遼

 おきざき・りょう 北大法卒、北大法科大学院修了。2012年12月弁護士登録。横浜の弁護士事務所を経て18年1月から現職(第二東京弁護士会)。予防法務に力を注ぐほか、中小企業法務を中心に利益の最大化に役立つサービスをパッケージ化して提供。対処法務やビジネスの仕組みに対しての提案も行う。33歳。北海道出身。

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