リーダーの視点 鶴田東洋彦が聞く

ホテル東京・中村忠正社長 お節宅配・宿泊健診…業界初を連発

 ホテル東京・中村忠正社長(2-1)

 お節料理の宅配、ホテルでの人間ドック-。結婚式場「八王子日本閣」、旅館「料理の宿 伊豆のうみ」などを経営するホテル東京(東京都港区)は、国内初、業界初のサービスを続々と生み出してきた。中村忠正社長が開業以来こだわってきた食と健康で、持ち前のアントレプレナー(起業家)精神を遺憾なく発揮し時代を先駆けてきた。新型コロナウイルス禍の今も独創力は健在で、おいしく食べて免疫力を高められるメニューを開発した。「健康は食事から。人間とウイルスの戦争に勝つ」と意気込む。

 書院造りの客室

 --他社とは違うアイデアが浮かんでくる

 「1969年に5階建て・50室で『ホテル東京』(東京・高輪)を開業したが、客室はツインベッドと畳の間という和洋折衷のツインルームで書院造りの設計とした。ヒノキ風呂も用意したが、当時のホテルマンにはない発想だった。煙感知器も設置した。義務づけられておらず、実際に設置したホテルも数少ない時代に、火災対策に万全を期して導入した。『人の命を預かるのが仕事』との思いから、ホテル建設計画に組み込んだ」

 --評判になったのでは

 「マスコミに称賛され評判になり、(米航空会社で当時は業界最大といわれた)パン・アメリカン航空が日本建築の趣を配した数寄屋造りに目をつけ『東京に小さいけど素晴らしいホテルがある』とお客さまの定宿に指定した。さらに『パイロットや客室乗務員など搭乗員も宿泊させたいので全室を借り切りたい』と要請されたが、断った。米国人にとってホテル東京のネームバリューは高かったといえる」

 「宿泊のみがホテルの機能だと考えられていた時代の71年、全ての時間を区切って部屋を使える『フルタイムホテルユース』という時間売りの試みも日本で初めて開始し、会議や商談、会合、パーティーなど新たな市場ニーズの開拓に成功した。以後はこれを模倣したホテルが次々と現れ、今や当たり前のホテルプランとして根付くまでに至った」

 時代が待ってくれた

 --設立以来のテーマという食でも日本初を連発してきた

 「70年にお節料理の宅配を始めた。ホテル東京が日本で初めて仕掛けた事業だ。お節は家でつくるのが常識だったが、大みそかの数日前から仕込んでつくるという忙しさを知っていたので開放したかった。3段重ね・30品目を1万円、今でいえば10万円ぐらいだが、500セットを一発で売り切った」

 「ホテル近隣の高輪、白金、青山に新聞折り込みチラシを配っただけだが、高級住宅地に位置していたこともあって、ホテルならではの超一流料理人によるお節料理の質の高さが評判を呼んだ。自分の家の味に加え、料亭のお節を振る舞うというぜいたくなのだが、『時代が待っていてくれた』と感じた。現在では当たり前になったお節などの高級料理の宅配のルーツはホテル東京にある」

 --ぜいたくも受け入れられた

 「95年に結婚式場と披露宴会場をリニューアル、ホテル館内の2宴会場とフレンチレストランの計3会場で年間挙式披露宴500組を10年以上にわたって達成した。業界関係者から『(3会場で500組は)業界の七不思議』といわれたが、『(結婚式場の)料理を選ぶなら絶対にここ』と高い評価を得たからだ」

 「中でも『KING&KING』のコースは知る人ぞ知るお祝い料理。旬の味覚を追求した本格懐石のフルコースを乙に澄まして食した後、お口直しのグラニッテ、そしてフランス料理のフルコースを楽しむというぜいたくで満足度100%のコース料理だ。現在も八王子日本閣(東京都八王子市)、柏日本閣(千葉県流山市)の結婚披露宴の人気メニューの一つだ。予約すればレストランや個室で食べられる。また、KING&KINGの提供スタイルなどノウハウを提携した全国十数件のホテル・結婚式場に公開し指導してきた」

 食と健康の時代 コロナ危機で実感

 --ホテル外での飲食事業の展開は

 「74年にワンフロア500席の巨大中国料理店として飲茶を提供する『ビッグチャイナ』を東京・新宿にオープン。香港から三本指に入る料理人を連れてきた。本格的飲茶を広大なフロアで提供する試みはおそらく日本初だろうといわれた。新宿・歌舞伎町商店街振興組合の会長から『あなたのおかげで女性や子供が来るようになった』と喜ばれた」

 「200カイリ(約370キロ)漁業水域が設定された77年ごろ、漁場が制限され自由に漁ができなくなるので、遠洋で取っていた高級魚が食べられなくなると大騒ぎになった。そこで同年、ビッグチャイナで『二百海里メニュー』をつくった。近海にいるサバ、アジ、イワシといった大衆魚をフルコースで安く提供するもので人気を博した。『栄養価の高い青魚が近海にいっぱいいる。騒がなくてもいい』といって、家庭でも食べてほしいので料理レシピを渡した」

 医療機関並みの評価

 --もう一つのテーマである健康については

 「人間ドックをホテル内に開設したことも驚かれた。73年のことで、宿泊と人間ドックでの健康診断を一体化させるという合理性に富んだ医療プランを日本で初めて導入した。米ニューヨークなどでは健診センターが開設され、そこで診てもらうためにホテルが周辺に建てられたという。うちはホテルにいながら健診できる。しかも本格的な医療機材を導入した医療施設なので、当時の週刊誌による『安心できる人間ドック50選』で、医療機関と並んで唯一、ホテル東京がランクインした」

 --人間ドックを開設した理由は

 「煙感知器もそうだが『この時代だからこそ』と思った。10年、ひよっとすると20年早いかもしれないが、予防医学という考え方があった。膨らむ一方の医療費を予防で減らすことができる。国も助かる。『転ばぬ先のつえ』で、病気にならない社会が来ると願っている。『できるわけがない』といわれたが、免疫力をつければいい。免疫力が高まると病気が逃げていく」

 --新型コロナの影響は

 「ホテル業は宿泊の他、宴会や結婚披露宴、レストランなどを運営しており、いってみれば飲食業でもある。『大勢が集まるのは駄目』ということで商売が奪われた。痛いが、不思議なことに伊豆のうみ(静岡県伊東市)は満室。伊豆高原に2009年に開業した露天風呂付き全6室の高級旅館だが、伊豆の海、山、野の旬の素材をふんだんに使った日本料理を東伊豆で一番おいしく提供することで土日だけでなく、がらがらだった平日も埋まるようになった。料理に加え、静かでゆっくりとくつろげる大人の宿として気に入られたようだ」

 --コロナ禍で分かったことは

 「宿泊客が来なくなったとき、料金を下げようと考えたが、まずは様子を見ることにした。それが良かったのだが、お客さまはただ安くしただけで来るわけではない。お客さまが選ぶのは『値段であって値段ではない』ということをコロナで学んだ。顧客満足度であり、これに値すれば喜んで払う。『なるほど』と合点がいった」

 免疫力強化メニュー

 --新たな展開は

 「コロナ危機を経験して改めて、食と健康の時代の到来を深く感じる。人とウイルスの戦争が本格的に始まった。医食同源といわれるように健康は食事から。免疫力に勝る薬はないということだ。そこで『免疫力強化メニュー』を開発し、八王子日本閣で7月から提供している。医食同源、健康は食事からという観点から免疫を高めるには食が効果的だ」

 --どんな食材を使っているのか

 「コロナウイルスと闘う力を高めるといっても、いつも食べている食材を使っている。自然界には免疫力強化に効果的な食材がたくさん存在している。青魚で健康成分のDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)を摂取でき、動脈硬化やがんリスクを下げる効果がある。キノコ類はビタミン豊富で食物繊維が腸内環境を整える。ビタミンC、K、Eが豊富なブリッコリーはがん予防や抗酸化作用があるといわれる」

 「飲食店として、こうした日頃なじみの食材を使って、おいしく食べて免疫力を高めるコース料理を提供する。八王子日本閣でスタートしたが、柏日本閣や伊豆のうみでも始める。『おいしい』をキーワードに、免疫力強化の食事を提供するのがコロナ時代の私の仕事だ。家庭でも再現できるように料理レシピを差し上げている」

【プロフィル】中村忠正

 なかむら・ただまさ 1959年中央大学法学部卒。62年歌茶屋(現ホテル東京)設立し社長。山梨県出身。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus