FM転換の課題
総務省の有識者会議も同年8月、これまで認めていなかったAM局がFM放送に移行したり、FM波を併用したりすることを容認する方針を示した。地域を絞ってAM放送を停波し、FMで従来の聴取エリアをどこまでカバーできるかを確かめる「実証実験」も検討されており、総務省は今秋までに実験の具体的な内容を公表する方針だ。
ただ、各局ではFMの中継局を新設するコストの問題も浮上している。総務省はAM局のFM移行やFM併用は、ラジオ局の経営上の判断と捉えているため、「国として求めているものではない。現時点で放送局側と(中継局新設に関わる)補助の約束はない」(地上放送課)と明かす。補助金が出なければ、厳しい経営環境に置かれているラジオ局はFMへの移行に二の足を踏まざるをえない状況だ。関西のあるラジオ局幹部は「山間部も多い日本ではFMに切り替えても多くの送信所が必要になり、転換や併用の判断は簡単ではない」と口にする。
もちろん、リスナーの存在も無視できない。
「ずっとラジオに親しんでこられた方はAMで聴いている。そういう方に情報を届けるために、AMの役割は引き続き大きいと言わざるを得ない」。朝日放送(ABC)ラジオの岩田潤社長はこう話す。
ラジオには聴く人に寄り添った情報を届ける使命がある。しかし、コストからも目を背けることはできない。限られた選択肢の中でラジオはどう変革していくのだろうか。
新型コロナウイルス感染拡大の影響による、巣ごもり、在宅勤務の増加で、ラジオの聴取者は増えている。ビデオリサーチによると、首都圏民放5局の平均聴取者数は2~3月が80万人前後で推移していたが、4月には約90万人に達した。ラジオ番組のインターネット配信を手掛けるラジコも、今年4月に利用者数が過去最大の900万人を突破した。