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メーカーの生命線守れ パナOBら奮闘、技術流出の横行防ぐ

 メーカーの生命線といえる独自技術。企業は研究開発に力を注ぐが、一方で技術の情報漏洩(ろうえい)をいかに防ぐかも重要課題だ。大手電機メーカーなどのOBらで立ち上げた一般社団法人「情報セキュリティ関西研究所」(大阪市)は、関西の企業を中心に技術流出を防ぐための調査やアドバイスを実施。8月には西日本で初めて、情報管理が適切な企業にお墨付きを与える国の制度「技術情報管理認証制度」の認証機関になった。対策が遅れ気味な中小企業への支援を強化している。

 中小で「珍しくない」

 「ある社員の退社から半年後、うちと同じ製品が中国メーカーから発売された。何とかならないか」

 情報セキュリティ関西研究所の金森喜久男代表理事(71)は、追手門大学経営学部教授だった4年ほど前、関西に拠点を置く医療用器具メーカーの経営者からこんな相談を持ち掛けられた。

 教授就任前は、松下電器産業(現パナソニック)で情報セキュリティー本部長も務めていた金森氏。「こうした情報流出は珍しくない。特に情報管理に手が回りにくい中小企業から、パソコン内の生産ラインに関するデータや金型の試作品などの技術情報が海外に持ち出される実態を数多く目にしてきた」と話す。

 同研究所は2017年2月、パナソニックの元同僚、長野数利理事やIBMのOBらと設立。企業の情報管理などのコンサルティング事業を始めた。

 昨年は経済産業省からの受託事業として、三菱総合研究所などと企業の技術情報の管理強化のために専門家派遣事業を実施。8月には、経産省から「技術情報管理認証制度」の認証機関に認められた。認証機関は国内5団体目で、西日本では初めてになる。

 情報セキュリティーに関する認証制度は、国際標準化機構(ISO)が推進する情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)があるが、経産省の制度は技術情報に特化し、社内などでの情報管理の適合状況を認証する。

 金森氏は「企業は情報管理を進めれば独自の技術を流出から守れるだけでなく、情報が整理されて業務効率が改善する。取引先からの信頼も高まる」と強調する。

 金森氏にも苦い経験がある。松下電器に情報セキュリティー本部が発足した04年当時、社内ではパソコンの紛失や盗難、元社員による漏洩などで、さまざまな技術情報が流出していた。

 ある時は開発中のバッテリー材料が社内から消え、間もなく海外メーカーが似た材料を採用したバッテリーを使って製品を発売。ただ、バッテリーの安全性を高める技術は別の施設で開発していたため流出を免れ、海外メーカー製品は発火事故が相次いだという。

 当時の中村邦夫社長から後押しを受け、情報システムや法務の専門知識を持つ社員を本部に招集。グループを約40の事業領域に分けてそれぞれにCSO(最高セキュリティー責任者)を置き、社員にISMS審査員の資格取得者を増やしたほか、仕入れ先にも情報管理の徹底を求めた。

 情報流出をめぐり法廷闘争に持ち込まれる例も目立っている。新日鉄住金(現・日本製鉄)が12年、韓国鉄鋼大手ポスコなどを相手取り、鋼板製造技術を不正に取得したとして損害賠償の支払いなどを求めた訴訟では、15年にポスコが約300億円を支払う内容で和解。流出が発覚したのは新日鉄住金側の元社員が漏らした技術情報を、ポスコ元社員がさらに中国企業へと流出させた別の事件がきっかけだった。

 専門家活用呼び掛け

 技術流出の横行を受けて政府は不正競争防止法を強化し、大企業では情報管理の厳格化や知的財産権訴訟などの措置をとる動きが進んだ。一方で、資金面での余力が小さい中小企業には対応が難しい。

 ただ、中小企業を通じて、取引先の情報が漏れてしまう事例もある。大阪商工会議所が昨年行った調査では、全国の中堅・大企業の4社に1社が取引先の中小企業が受けたサイバー攻撃の影響を被った。その結果、情報漏洩やデータの損壊などに至った事例もあった。

 研究所では今後、国が全額費用負担する専門家派遣事業で経営者の個別の相談に対応しながら、認証制度の審査にかかる費用も抑えて中小企業に活用を呼び掛けていく。

 金森氏は「新型コロナウイルスの感染対策でリモートワークが普及し、技術流出のリスクが高まっている。改めて社内の情報管理に目を向けるべきだ」と訴えている。(山本考志)

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