高論卓説

女性の自殺者が急増、パート激減と関係か 急げ弱者対策

 総務省が発表する労働力調査で不思議な現象が明らかになった。新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)による経済活動の停滞にもかかわらず、正規職員の雇用が前年同月比でプラスを続けているのだ。

 雇用者数全体は4月に88カ月ぶりに減少に転じて以降、7月まで4カ月連続でマイナスになっている。ちなみに88カ月ぶりというのは第2次安倍晋三内閣が発足した2012年12月以来ということで、安倍前首相が胸を張っていた雇用の増加が止まったことを示していた。

 そんな雇用情勢の変化にもかかわらず、正規雇用は4月1.8%増、5月0.0%減、6月0.8%増、7月1.5%増と、むしろ増加傾向にある。これは一体どうしたことか。

 正規雇用が増えても全体でマイナスということは、非正規雇用が減っているわけだが、こちらの落ち込みはすさまじい。4月4.6%減、5月2.9%減、6月4.8%減と続き、7月は6.0%減になった。昨年7月と比べると131万人も非正規雇用者が減少したことになる。

 その多くがパートやアルバイト、しかも女性である。7月にはパートが51万人、アルバイトが33万人減ったが、うち女性のパートが42万人、アルバイトが22万人を占める。明らかに立場の弱い女性パート・アルバイトにしわ寄せが行っているのだ。

 では、なぜ、正規雇用は増加しているのか。恐らく、これは国の新型コロナ対策と強く連動している。国は失業者を増やさないために、雇用調整助成金の制度を拡充した。手続きを大幅に簡素化し、支給基準を緩め、支給上限額も引き上げた。雇用調整助成金制度は企業に雇用を維持させるのが目的で、休職させた職員にいったん企業が給与を支払い、後から国が助成金で補填(ほてん)する。

 西日本の労働局の職員によると、9月末に、この助成金の駆け込み申請が急増したという。4月まで遡(さかのぼ)って申請できる期限が9月末だったためだ。「ということは、申請企業は半年分の給与を払う余力があったということです」とこの職員は言う。それでも国の助成が得られるため、企業は正規雇用に手を付けないどころか、むしろパートを正規職員に変えるなど、増やしているのではないか、というのだ。

 制度拡充でパートも対象にする制度ができたが、パートを雇う零細事業者は、そもそも労働保険に加入していないケースも多く、申請でつまずくところも少なくなかった。ならば、「客がいないから明日から来なくていい」の一言で雇い止めした方が、楽である。こうしたパートでは、なかなか失業保険をもらうことも難しい。

 米国の場合、事業環境が悪化すると事業者はすぐにクビを切る。3月に非常事態宣言が出た後の3月最終週には665万件の新規失業保険申請が出た。リーマン・ショック直後の10倍である。

 企業に抱えさせる日本と、企業が放出した人材を国が失業保険で支える米国の政策は似て非なるものだ。米国は企業にリストラを促し、働き手の労働移動の背中を押す。産業構造が大きく変わるときには、米国流が力を発揮する。

 また、日本の場合、失業保険制度が脆弱(ぜいじゃく)なため、パートやアルバイトなどは保護されにくい。パートで生計を立てていた母子家庭で母親が職を失い、一気に経済的に困窮するケースが少なくない。

 警察庁の発表によると8月の自殺者は前年同月比15.8%も増えた。中でも自ら命を絶った女性が急増したという。

 まだ、1カ月だけの統計で断定的なことは言えないが、女性非正規の失業と関係があるとすれば、早急に対策を取る必要がある。仕事を失った立場の弱い人たちを救う雇用対策が急務である。

【プロフィル】磯山友幸

 いそやま・ともゆき ジャーナリスト。早大政経卒。日本経済新聞社で24年間記者を務め2011年に独立。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus