高論卓説

当たり前ができているかというと意外と…中小企業がとるべき特許戦略

 今年度の業績予想では、企業の56.0%が「減収減益」見通しとされている。新型コロナウイルス感染拡大の影響によって世界的に景気がよくないのは明らかであるが、そんな時代に中小企業はどのような特許戦略をとるべきか。主に、出願に関する特許戦略について考えてみたい。

 結論からいうと、「選択と集中」という当たり前の戦略をとるべきとなるのであるが、各企業がその当たり前ができているかというと意外とそうでもないように思う。

 特許権者は、侵害者に対してその特許に抵触するビジネスの実施を止めるように請求することができる強い権利を保有している。つまり、自社製品の模倣品が世の中に出回った場合には、これを差し止めることができるわけであるが、模倣品対策にとどまらず、他社が実施するような必須の仕様ないし構成まで考えて考え抜いて権利化を図ることで、競争上有利な地位を確保することが可能となる。

 「他社が実施するような必須の仕様ないし構成」。言葉にすると非常に簡単なように思えるが、実際に権利化の場面で、これを追究するのは容易ではない。特許を出願する際には、当然のことながら当該特許でカバーしようとする技術の内容を理解する必要がある。

 しかし、ここでその技術の内容を正確に理解するだけにとどまらず、できるだけ当該技術の特徴部分を、最も近い公知(従来)技術と対比した上で、無駄がないように構成化する必要がある。この作業は、非常に時間がかかるものであるし、時間をかけるべきものでもある。徹底的に無駄を取り除いた技術的特徴を抽出するというわけである。

 次に、考えられるのが「分割出願」の有効活用である。ただでさえコロナ禍で業績が悪化しているのに、大量に特許出願をするのは厳しいであろう。無駄を取り除いた質の高い特許に対して、集中的に投資するのが妥当といえよう。そこで有効なのが分割出願である。

 分割出願とは、2つ以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願とすることである。この新たな出願は、元の出願時点になされたものとみなされる。元の出願の範囲であれば、発明を異なる観点から多角的に保護することが可能となる。例えば、ある発明Aは、ユーザーインターフェース的に特徴があるかもしれないし、内部処理的にも特徴があるかもしれない。あるいは、いったん権利にはなったものの、後日、少し表現を変えて別に権利を取得したいと思うかもしれない。分割出願は、このような場合に対応できる有効な制度で、知財部のあるような大企業であれば上手に活用している。

 もっとも、「じゃあウチも」と思っても、時期的な要件があり、いつでも分割できるわけではないので、注意が必要である。新たな出願なので、コストはかかるが、新規に別の出願をするより安上がりである。自社にとって有力な技術などは、分割を駆使して多角的に保護する余地を残しておき、「選択と集中」を実現したい。

 このように、時間をかけて発明の技術的特徴を抽出し、その上で、分割という手段により、ある程度のコストをかけてでも多角的に保護する。これが中小企業における「選択と集中」を実現した特許戦略といえよう。

【プロフィル】溝田宗司

 みぞた・そうじ 弁護士・弁理士。阪大法科大学院修了。2002年日立製作所入社。知的財産部で知財業務全般に従事。11年に内田・鮫島法律事務所に入所し、数多くの知財訴訟を担当した。19年2月、MASSパートナーズ法律事務所を設立。知財関係のコラム・論文を多数執筆している。大阪府出身。

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