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「日本の翼」道半ばで挫折 スペースジェット、撤退の悪夢も

 三菱重工業が、国産初のジェット旅客機スペースジェット(旧MRJ)事業を凍結する方向で最終調整していることが明らかになった。国は小型旅客機の需要拡大を見込み、成長戦略に掲げて支援してきたが、新型コロナウイルス流行で環境は一変。プロペラ機「YS11」以来、半世紀ぶりとなる「日本の翼」は道半ばで挫折し、視界の先には撤退の悪夢がちらつく。

 「なかなか夢のある事業だった」。今後の経営方針をめぐる議論が深まっていた9月。三菱重工幹部は、1兆円規模の開発費をつぎ込んだスペースジェット事業を“過去形”で振り返った。コロナ禍が会社全体の業績を押し下げる中、いまだ収益を全く生まない国産機計画に対し、諦めにも似た感情が表れていた。

 昨年時点では、開発子会社の三菱航空機は座席数100席以下の小型機の世界需要が今後20年間で約5000機あると予測。ブラジルの競合エンブラエルなどに対抗し「全体で40~50%のシェアを目指す」(幹部)と意気込んでいた。

 その矢先にコロナ禍が襲った。顧客となる航空会社の経営が急速に悪化し、航空機需要は消滅。国際航空運送協会(IATA)は、世界の航空需要がコロナ前の水準に戻るには2024年までかかると予想し、事業の前提が一気に崩れた。

 事業環境が悪化する中でも、政府は今年7月に策定した成長戦略で、スペースジェットを含む航空機産業の拡大を掲げ続けた。約100万点の部品で製造する航空機は裾野が広く、自動車に次ぐ国内の基幹産業に育てたい思惑がある。

 経済産業省は先端技術の開発促進に予算を付け、スペースジェット事業を間接的に補助。国土交通省は運航に必要な「型式証明」と呼ばれる安全性認証の審査のため、三菱航空機の開発拠点に職員を配置した。量産化を見越し、多額の投資を行って製造設備を更新した中小企業は多い。しかし現実は厳しく、初納入先のANAホールディングスは、21年3月期の連結最終損益が5300億円前後の巨額赤字に陥る見通し。コロナ禍以降、世界では航空会社の破綻が相次ぎ、スペースジェットの先行きを気にする余裕は全くない。

 重工業界では先行きを悲観し、事業化断念を予想する声もある。三菱重工は型式証明の取得は目指す方針だが、取得できれば「名誉ある撤退を選ぶのではないか」(競合他社の幹部)とみられている。

 23日の三菱重工の株価は事業凍結の報道を好感し、前日比6%ほど上昇した。官民の思いとは裏腹に、経営の足を引っ張り続ける事業に対する市場の見方は冷ややかだ。

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