菅義偉首相は、26日の所信表明演説で、デジタル社会の実現についても言及した。新型コロナウイルスの流行で、日本のデジタル化の遅れが浮き彫りとなったことが背景にある。ただ、示された具体策はコロナ禍で指摘された課題への対処に終始。デジタル社会でどんな世の中を作ろうとしているのか、心が躍るような将来像は語られなかった。
「役所に行かずともあらゆる手続きができる」「地方にいてもテレワークで都会と同じ仕事ができる」
デジタル化で実現する社会のイメージについて、菅首相は演説でこう示した。新型コロナでは、10万円の特別定額給付金の給付のために役所に人が殺到。在宅勤務などのテレワークにも順応できなかったことで、経済の停滞につながった。
その意味では、菅首相が目指すデジタル社会では、こうした問題は起きないことになる。具体策として挙げた、自治体システムの標準化▽マイナンバーカードの普及▽小中学生へのIT端末の導入▽脱はんこ-なども、早急な取り組みが求められるものばかりだ。
ただ、これらが実現できても、ようやくデジタル社会の入り口に立てたというのが実態だ。高齢化する日本ではパソコンやスマートフォンを苦手とする人も多い。マイナンバーカードの普及率は21・4%。キャッシュレス比率は26・8%。先日行われた国勢調査もインターネット回答は39・5%にとどまっている。これらは、国民のデジタル技術に対する苦手意識や不安の表れでもある。こうした人たちをどう巻き込んでいくかは最大の課題だ。
またデジタル化は単なる課題解決の手段ではない。社会のありようを抜本的に変え、日本の成長のエンジンにしていくことが重要だ。デジタル化で日本をどう導こうとしているのか。大局的な観点が欠如したままでは、国民はついてこない。(蕎麦谷里志)