中小企業へのエール

コロナ後の経済 需要細りIT分析がより重要に

 物事の事象には、その原因となる“萌芽(ほうが)”が必ず潜んでいる。その萌芽は、絶頂期のころからひっそりと息を潜め、その根に隠れているのだ。今回の新型コロナウイルスによる経済への大きな影響、そしてコロナに対応した新たな生活様式によって、多くの業種業態で大きな変化を余儀なくされている。コロナ禍の根元に潜んでいた萌芽とは、いったい何であったのかを考えてみたい。(京都先端科学大・旭川大客員教授 増山壽一)

 今年初め、世界経済や日本経済は絶頂期で、株価も有効求人倍率も高く、経済は締まり、完全雇用であった。ITの普及で社会全体がデジタルトランスフォーメーション(DX)を迎え、大きなうねりの中でより生産力を上げるべく、そのアクセルをふかしていたのである。

 その一方で、経済の基礎となる「生産と需要」の関係の質が大きく変容していた。需要はITの普及によって、小ロットで即時性に富むものに変わり、大きな需要があると思っても、その実態は虚空で変幻自在に変わっていく存在であった。

 他方の生産は、中国やインドの大幅な生産能力増強もあり生産過剰となっていた。そのギャップを埋めるために、何をしていたかと言うと、需要を無理やりつくり上げていたのである。このことは観光や飲食などのサービスも同様だ。

 落語に「長屋の花見」という演題がある。貧乏長屋の一同が大家に誘われ花見に行く。だが酒がない。番茶を煮だして薄めたものをあたかも酒のように飲んで騒いで、周りもあたかも酒宴のように感じるという噺(はなし)である。まさしく一同お茶で花見をして、花見を無理やりつくり上げていたのだ。

 では、コロナ後の経済はどうなるか。諸説語られるが確実に言えることは、需要はより洗練されて、小ぶりで、わがままになるということである。供給するものは、それを念頭にモノを作り、サービスを含めて売らなければならない。特にサービス業では、結果的に値段も柔軟になっていくであろう。

 いいものは高く、季節や消費者のニーズに合わせての値段が一般的となるであろう。どんと作ったものを店頭に置いて、あぐらをかいていても売れる時代はもう二度とは来ない。そして、ますますITを使った需要の分析、生産の調整、対応などが生産者の鍵になることは間違いない。「作れば売れる時代は、もう来ない」と覚悟すべきである。

【プロフィル】増山壽一

 ますやま・としかず 東大法卒。1985年通産省(現・経産省)入省。産業政策、エネルギー政策、通商政策、地域政策などのポストを経て、2012年北海道経産局長。14年中小企業基盤整備機構筆頭理事。旭川大学客員教授。京都先端科学大客員教授。日本経済を強くしなやかにする会代表。前環境省特別参与。著書「AI(愛)ある自頭を持つ!」(産経新聞出版)。58歳。

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