菅義偉首相は9日の経済財政諮問会議で、「2050年までの温室効果ガス排出量実質ゼロ」の目標に向けて必要な対策の策定を進めるよう指示した。米大統領選で環境問題に熱心な民主党のバイデン前副大統領が当選を確実にし、地球温暖化対策が加速するのは必至。日本もグリーン社会の実現をデジタル化に並ぶ政策の柱に据え、国際社会でアピールしたい考えだ。
「グリーン社会の実現、デジタル改革による社会経済の大きな変革に取り組む。時機を逸することなくあらゆる手段を総動員して、早期に日本経済を成長軌道に戻していく」
首相は諮問会議でこう述べ、温暖化対策をデジタル化と並ぶ政権の柱に位置付ける考えを示した。
政府は今後、年内に策定する令和2年度第3次補正予算案と3年度予算案に加え、税制改正大綱や規制改革などをセットにして対応を強化する。洋上風力発電などの電力のグリーン化や、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を出さない水素の活用、CO2の再利用などを重点分野に掲げ、技術開発を加速する。
一方、経団連の中西宏明会長ら諮問会議の民間議員は、「脱炭素社会の実現に向けた国際的な産学官の大競争が始まっている」と指摘。温暖化対策の国際的ルール作りを日本が主導し、資源や環境の持続可能性を考慮した事業に対し資金が還流する仕組みを構築すべきだと提言した。再生可能エネルギーを主力電源にするため、「業界再編を含めた電力産業の構造改革」を通じて送配電網の増強や広域化を図るべきだとした。
バイデン政権誕生で米国が温暖化対策のパリ協定に復帰すれば、世界で対策の機運が高まり、排出削減が遅れた日本は国際的に孤立する恐れがある。菅政権としては来年1月の米政権交代前に具体策を詰めることで「米国追従」との批判をかわす思惑もありそうだ。
ただ50年排出ゼロの実現は電源構成を含むエネルギー基本計画の大幅な見直しが必要。30年までに温室ガスを「13年度比26%削減」する足元の目標も上積みを迫られる恐れが強く、企業活動の大きな負担となる。