ソフトバンクグループ(SBG)は、9月に傘下の英半導体設計大手ARM(アーム)ホールディングスを人工知能(AI)分野で存在感を強める米半導体大手エヌビディアに売却した上で、同社の主要株主になることを発表するなど、AIの分野で世界と戦う下地が整いつつある。最近は資産売却など守りが目立った同社だが、孫正義会長兼社長は9日の会見で「潤沢な現金が手元にある。攻めに行く」と言及。次の一手に注目が集まる。
「人類の未来はAIにある。これからエヌビディアの時代がくる」。孫氏はアームとエヌビディアが一緒になる意義を強調する。AIは今後、あらゆる業態が導入する技術とされ、同社もAI関連企業への投資を積極的に行ってきた。
中でもアームはスマートフォン向け半導体の設計で世界シェア9割を占める有望株。高度な画像処理半導体(GPU)で知られるエヌビディアと互いの得意分野を組み合わせることで、より高度なAIの開発につながるとされ、単独で保有し続けるよりも、売却してエヌビディアの株主になった方がメリットが大きいと判断した。グロービス経営大学院の斎藤忠久教授も「非常にシナジーの出やすい組み合わせだ」と太鼓判を押す。
孫氏は近年、投資先企業の子会社化にこだわらず、柔軟な連携により相乗効果を生んで成長を目指す「群戦略」を取ってきた。各企業がそれぞれ自律的に意思決定を行いつつ、緩やかに連携する方が全体の競争力は高まるという考えに立っているからだ。NTTがNTTドコモを子会社化し、力を再結集させようという動きとは対照的だ。
ただ、こうした手法には弱点もある。投資先の判断次第では意図せずに大きな損失を生む可能性がある。共有オフィス「ウィーワーク」を運営する米ウィーカンパニーの経営悪化で、19年9月中間連結決算で赤字に転落したのは記憶に新しい。
SBGの主な投資先である新興企業は景気下降局面では影響も受けやすいとされる。また半導体はGAFAなど米巨大ITが進出している分野でもある。孫氏が目指す群戦略で、どれだけ相乗効果を生み出せるか、不確定要素も大きいのが実態だ。(蕎麦谷里志)