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お茶所・静岡の底力、コロナ禍の逆境で生まれた“一品”

 全国有数の茶の生産地である静岡県の掛川中央茶業(掛川市)は12日、今年度の全国茶品評会に出品し、農林水産大臣賞を受賞した深蒸し煎茶(せんちゃ)の落札総額100万円を地元の中東遠総合医療センターに寄付した。予定していた受賞祝賀会などは長期化する新型コロナウイルスの影響で見送り、その代わりとして奮闘する医療現場を支援しようと寄付を決めた。新型コロナ禍で通常の茶摘みができなかったが、生産農家の普段の努力が“一品”を生む底力に結びついていた。

 この日、同社の佐々木余志彦社長は医療センターを訪問し、宮地正彦院長に「医療関係の充実や支援に使ってほしい。地元の人たちへの恩返しも込めた」と寄付した。宮地院長は「本当にありがとうございました」と感謝状を贈呈した。

 同社が品評会で受賞した「深蒸し煎茶」は、一般的な煎茶に比べて茶葉を長めに蒸すことで、渋みを抑え、マイルドな味わいが特徴。品評会は出品用の茶畑を事前に決めて栽培するのが通例で、「同じ畑でできた茶葉は品質が均一になる」(佐々木社長)。逆に、いろいろな茶畑から茶葉を寄せ集めると、葉の大きさや硬軟が異なり、品質が安定しないという。

 ところが、新型コロナウイルスの影響で今春、事前に決めていた茶畑での茶摘みを見送った。総勢100人ほどの生産農家が1カ所の茶畑に集まる「密」を避けるためだ。

 佐々木社長は「何も話さず、無口で摘み取るのは難しい。ここで感染すれば会社の責任問題にも発展しかねない。だから、40人ほどの生産農家に自分たちの茶畑で素晴らしい茶葉を摘み取ってきてほしい、とお願いした」と明かす。

 品質が安定するかどうか。不安がよぎったが、均一な茶葉が見事に集まったという。佐々木社長は、約45年間も続けてきた茶畑審査会の成果が背景にあったとみている。

 佐々木社長によると、生産農家はそれぞれ自分の茶畑に他人を入れないし、入らない。自分の家に他人が勝手に入り込む“不法侵入”と同じだ。だが、毎年1回の茶畑審査会は例外で、生産農家全員が参加し、他人の茶畑の作り方や根っこの状態を見学できる。

 「審査会は他人の茶畑に堂々と踏み入れることのできる唯一の好機。ここで成功事例を勉強し、切磋琢磨(せっさたくま)した結果、実は茶畑全体のレベルがアップしていた」。コロナ禍で見えた「想定外」の効果に目を見張る佐々木社長は今回の受賞について「生産農家が持ち寄った茶葉で受賞した。本当に価値がある」と胸を張った。

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