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トランプ政権後の世界 ルール尊重、保護主義的な政策修正へ

 米大統領選で民主党のバイデン前副大統領が当選を確実にしたが、経済や政策にどのような変化があるのだろうか。重要なのは、大きく変わる分野があると同時に、そうではない面もあるということだ。

 変わる部分で言えば、米国は地球温暖化対策の枠組み「パリ協定」に復帰して環境問題に前向きに取り組むようになるだろう。通商政策においては世界貿易機関(WTO)のルールを尊重し、保護主義的な政策を修正するとみられる。

 経済政策においては、社会保障制度の重視やインフラ整備など「大きな政府」に向けて、かじを切ろうとするだろう。当然、財源を賄うための増税が大きな論議となる。

 まったく変化しない面も多くある。今回の選挙でますます顕著になった米国社会の分断は、バイデン新政権が発足すれば、政策のかじ取りを難しくしそうだ。バイデン氏は分断を解消する重要性を力説していたが、政策レベルでは共和党との厳しい議会調整を迫られるだろう。

 気になるのが上院選の行方である。共和、民主両党による多数派争いの決着が来年1月に持ち越される公算が大きくなった。結果はそれまで待たなくてはいけないが、仮に共和党が上院で過半数を維持するようだと、増税などに向けた動きが議会によってブロックされることになる。オバマ政権時代と同じ構図だ。

 市場関係者の中には過度な増税の実施が難しくなるので景気にプラスだと考える人もいるようだが、税制の変更はバイデン氏の経済政策の要で、他の政策にどう影響するのか注目したい。

 新政権が発足しても、新型コロナウイルスの感染状況が深刻なことに変わりはない。科学を重視して感染に対応するというバイデン氏の姿勢は正しいと思うが、今の状況下で米景気の急速な改善は見込みにくい。日本を含む世界経済全体の低迷は当面、続くとみておいた方がよい。

 米景気の回復には時間がかかりそうだ。本格的な回復軌道に復帰するには、ワクチンの開発と普及が鍵を握る。

 政権が交代しても大きな影響を受けないもう一つの領域が米中摩擦だ。通商面で優遇措置が認められる途上国のステータスを掲げて輸出を拡大させ、先端技術分野で国家主導の産業政策を進める中国の動きを、バイデン氏も容認しないだろう。

 トランプ政権は主に2国間交渉を通じて中国に対応してきたが、バイデン氏は対中政策で、日本や欧州に足並みをそろえるよう要求してくるかもしれない。そうなれば農産物の一層の市場開放や、自動車の対米輸出制限を求める対日圧力がかかる可能性もある。

 トランプ政権は米国の分断をあおり、温暖化対策などさまざまな政策で、それまでの流れを破壊し続けてきた。大規模な減税によるカンフル剤的な景気刺激効果はあったかもしれないが、米国経済を持続的に成長させるにはほど遠かった。

 持続的な成長の流れをつくるには、感染拡大に正面から取り組み、環境保全に資するインフラ整備を加速すると同時に、医療や教育といった分野で改革を進め、貧困と格差による社会の分断を解消していかなくてはならない。バイデン氏の真価が問われる。

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【プロフィル】伊藤元重

 いとう・もとしげ 学習院大国際社会科学部教授。1951年静岡市生まれ。東京大経済学部卒。同学部教授などを経て、2016年から現職。専門は国際経済学。東日本大震災からの復興に向けた政策を議論する政府の復興推進委員会の委員長や、社会保障制度改革推進会議の委員を務める。

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