変貌する電機 2020年代の行方

NEC、全社横断でスピード感高めデジタル推進 “外部の血”で受け身脱却 (1/2ページ)

 今年7月、ホノルル近郊にあるダニエル・K・イノウエ国際空港などハワイ州5空港に渡航者の体温を測定する複数のサーマルカメラが設置された。そのネットワークは、各空港の到着ゲートからターミナルまで至る所に張り巡らされ、体温が38度以上ある渡航者がいると、アラームが鳴り、管理者に知らせてくれる。

 ハワイで顔認証受注

 信頼性は確かで、新型コロナウイルスの感染が疑われる人物を特定し、入国を未然に防ぐという実績も挙げた。12月には群衆の中でも38度以上ある対象者を迅速に特定し、移動経路を把握するサービスの導入も決まっている。対象者の画像は30分以内に消去し、プライバシー保護にも配慮している。

 開発したのは、米研究機関の顔認証技術の性能評価で5回の世界一を獲得しているNECのチームだ。画像から個人の顔の特徴を見つけて、誰であるのかを特定する顔認証技術と映像分析技術、サーマルカメラを組み合わせて完成させた。

 ハワイ州交通局は住民の安全を守りながら、観光客が安心して訪問できる環境を作るため、6月に空港向けのサーマルカメラの競争入札に乗り出した。対策を急ぐ交通局は7月中の導入を目指していた。

 空港での実証試験はわずか2週間後。かつてないほどのスピードで提案内容をまとめる必要があった。NECが選択したのは、昨年4月に全社横断でデジタルビジネスを推進するために立ち上げた「デジタルビジネスプラットフォームユニット」(DBPU)を中心としたチーム編成だった。

 意思決定できる5、6人のメンバーでチームを固め、映像分析技術を担当するシンガポール研究所と本社が連携し、2週間でソフトとサーマルカメラを組み合わせて機材を現地に輸送。設置場所や対象者への光の当て方、明るさを最適化しないと高い精度が出ないため、現地のエンジニアとも連携し、受注を勝ち取った。

 2週間で最適化成功

 プロジェクトリーダーで戦略コンサルタントを担当した熊谷健彦主席プロフェッショナルは「通常は2カ月かかる先端技術の導入を2週間で行うのはかなり大変な作業だった」と振り返るが、対応スピードの速さと付加価値をつけたサービス提案が採用の決め手となった。

 かつてのNECは各部門が縦割りで顧客の要望に応じて製品やサービスを開発していた。このため、技術はあっても調整などに時間を要し、受注を逃すことが少なくなかった。こうした状況を変えようと、新野隆社長は開発方法の改革を決断。スピード感を持って改革するため、DBPUのトップには“外部の血”を入れることにした。日本IBMのAI(人工知能)システム「ワトソン」の事業責任者だった吉崎敏文氏を執行役員として招いたのだ。

 現在、DBPUは全社の知見をAIやセキュリティー、生体認証などの技術分野ごとに集約し、さまざまな事例を体系化する作業を進めている。この枠組みを活用することで複数の技術を迅速に組み合わせることが可能になった。

 ハワイの空港サービスも、この枠組みを使い、個人情報を保護する機能も加えて付加価値を高めた。他の空港や商業施設などからも多くの引き合いが来ている。熊谷氏は「自分たちの能力が1つのスタンダードを作った」と自負する。

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