はやぶさ2の舞台裏

(下)「百点でなくていい」と撤退論 底力で跳ね返す (1/2ページ)

 「100点を目指さなくてもいいじゃないか。1回目の着地で取れた試料を持ち帰るだけで合格点の60点だ」

 令和元年6月6日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙科学研究所(相模原市)で開かれた、はやぶさ2の運用会議。所長の国中均(ひとし)(60)は、翌月に予定されていた2回目の着地を回避すべきだと主張した。

 2回目の着地は、太陽光などの影響を受けず変質していない地下の物質を採取する重要な意味があったが、失敗して機体が壊れたら、1回目の試料すら持ち帰れない。組織トップの立場からは、他の探査計画の予算獲得も難しくなってしまう懸念があった。

 チームからは異論が噴出した。「一つの小惑星から2地点の試料を採取できれば世界初の快挙だ」「事前に作った人工クレーター付近には、地下の試料が見えている」「採取できるとできないとでは、科学的価値は雲泥の差だ」

 これに対し、国中は「安全に再着地できることを、きちんとしたデータで示せ」と厳しい条件を突き付けた。

■腹痛、故障…あらゆる事態想定

 そこでチームは、あらゆるケースを想定した着地のシミュレーション(模擬実験)を10万回も実施。運用に欠かせない人物が重要な操作を行う直前に腹痛を起こして離席したり、コンピューターや姿勢制御の装置が突然故障したりするなど、想定外の事態も含めて徹底的に調べ上げ、安全に着地できることを立証する底力を見せた。

 その後に開催された運用会議。チームの科学責任者で名古屋大教授の渡辺誠一郎(56)は「検証には全幅の信頼を置いている。ぜひ挑戦していただきたい」と発言した。

 これが、判断を決めかねていたチーム責任者の津田雄一(45)の背中を押した。「確かな技術があるのなら、着陸しない選択肢はない」。津田は記者会見で、こう言い切った。

 激論の末に行われた2回目の着地。はやぶさ2が地表に降りると、岩石の破片が大量に舞い上がり、チームは採取成功を確信した。津田は管制室で「われわれは新たな歴史を作った」と宣言した。

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