電機大手がビジネスモデルを大きく変貌してきたのは、“外圧”によって変化せざるを得なかったというのが実態だ。
家電や半導体、パソコン、携帯電話がコモディティー(汎用(はんよう)品)化し、価格競争力のある韓国や中国、台湾メーカーに敗れ、各社とも撤退を強いられた。そこで自社の強い分野に集中する戦略で、社会課題を解決する付加価値の高いサービスにシフトしている。そうした中で、業績に格差が生じているのは、変化への対応力や社内改革の浸透度の差がそのまま表れた結果といっていい。
ただ、痛みを伴う構造改革を経て、社会の変化や技術の進化をあらかじめ想定し、自ら積極的に動いて、将来的に主導権を握ろうとする姿勢も出てきた。
例えば、ソニーはインターネットを軽視した過去の反省をもとに次のメガトレンドともいわれる「モビリティー」に照準を合わせて、電気自動車(EV)を開発した。ソフトウエアで自動車を動かす時代が近づいており、新たな展開を予感させる。個人データを米巨大ITのGAFAに握られたことを踏まえ、日立製作所や東芝は社会インフラなどのデータ活用ビジネスに活路を見いだそうとしている。
新型コロナウイルスの感染拡大で生活様式が変わったが、富士通はデジタル技術を活用し、顧客の課題を解決するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に力を入れている。顧客のDXを支援するため、自ら大胆な働き方改革を断行し、あるべき姿を模索している。
過去の失敗から受け身の姿勢では生き残れないという強い危機感が電機大手の変貌の原動力となっているのは間違いない。
各社の主力事業はそれぞれ異なり、もう電機大手と一くくりにするのが難しくなっている。10年後の2030年代には、そうした傾向がさらに強まっていることも予想される。
現在、日本の電機大手は安定した法人向けビジネスを柱としている。だが、約40年前にはソニーが「ウォークマン」を発売し、世界を席巻した。開発を指揮した創業者の盛田昭夫氏を尊敬する米アップルのスティーブ・ジョブズ氏が07年に「iPhone(アイフォーン)」を投入し、世界のライフスタイルを大きく変えた。日本の電機大手も法人向けビジネスに安住するだけでなく、世界にイノベーションを起こす商品やサービスを生み出すことを期待したい。(黄金崎元)