高論卓説

原発事故からまもなく10年 危機管理体制の出発点になるか

 晩秋の晴天の光に照らし出されるように、東京電力福島第1原子力発電所の1号機から4号機が、見学デッキから間近に迫ってくる。水素爆発によって建屋の上部が吹き飛んだ1号機、使用済み核燃料の取り出しが近い2号機、ドーム形のカバーが取り付けられた3号機、使用済み核燃料の取り出しが完了している4号機。第1原発の見学会に参加して、初めて構内に入った。(田部康喜)

 海側に立ち並んだ、原発群から振り返って西側をみると、さまざまな形と色のタンクが林立している。構内で発生している汚染水の処理水が貯蔵されている。半世紀先をにらんだ、廃炉作業を続けるためには、使用済み核燃料などを保管する施設建設のためにタンク群を撤去しなければならない。政府は処理水の海洋投棄の方針を固めたが、地元漁協などの反対にあって膠着(こうちゃく)状態が続いている。

 2011年の東日本大震災の巨大地震と大津波、そして原発事故から年が明ければ10年。これを前にして、「日本で一番原発に近い大学」といわれ、筆者が研究者として在籍している、東日本国際大学(福島県いわき市)において初秋、「災害現場の初動から真の復興、そしてウィズコロナの未来に向けて」と銘打ったシンポジウムが開かれた。原発事故の対策に関わった国内の放射線などの研究者や、ハーバード大学の災害対応の研究者らが参加した。

 国際危機管理者協会・日本支部会長の永田高志さん(九州大学・災害救急医学分野助教)は、原発事故と新型コロナウイルスによるパンデミック対策の共通点を指摘する。社会機能のまひが広範囲に及ぶ、危機をいかに分かりやすく伝えるかのクライス・コミュニケーションが重要な役割を担う、そして発生当初は対策の方向性がみえないことである。

 放射能もコロナウイルスも目に見えないために、恐怖や不安が人びとを襲う。恐怖心を克服するために、コミュニケーションは医師が担い、相手の心に寄り添う共感性が必要だ、と説く。

 ハーバード大学准教授のステファニー・ケイデンさん(家族人道主義戦略研究所部長)は、コミュニケーションの在り方として、迅速である、正しい、信頼できる、尊厳を認める、理解が容易であることなどを上げる。

 防衛医科大学校・防衛医学研究所長の四ノ宮成祥さんは、オウム真理教の地下鉄サリン事件や旧ソ連時代に起きた、炭疽(たんそ)菌の漏出事件など、生物化学兵器によるテロなどの教訓からも学ぶべきだ、と強調する。原発事故に派遣した自衛隊員に対して、放射線量の測定とともに、メンタルヘルスの確保に重点を置いたという。

 こうした対策は、新型コロナに感染した乗客が収容された、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」に派遣した隊員から一人も感染者が出なかった要因だという。

 大規模な事故や災害の直後には、それに立ち向かった「英雄」たちの物語がつづられる。事態が改善しない中で、絶望が生まれる。そして、時を経て「復興」のステージに入る。

 この中で、日本の危機管理体制は再構築される必要がある。シンポの参加者である、永田さんらと官僚が共同で「緊急時総合調整システム」(14年、日本医師会)が編まれた。クライシスが発生したときの組織の在り方を記したマニュアルである。医療関係者や厚生行政の専門家、地域のリーダーなどに広く読まれている。

【プロフィル】田部康喜 たべ・こうき 東日本国際大学客員教授。東北大法卒。朝日新聞経済記者を20年近く務め、論説委員、ソフトバンク広報室長などを経て現職。福島県出身。

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