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変革迫られる“優等生”の三菱電機 創業100周年を前に続く模索

 【経済インサイド】

 電機業界で「優等生」と呼ばれる企業がある。過去10年で1度も赤字を出していない三菱電機だ。

 この10年、同業他社が痛みを伴う構造改革を強いられる中、ファクトリーオートメーション(FA)、自動車機器、電力システム、家電、エレベーター、人工衛星など幅広い事業を展開する同社は、「総合電機」の看板を下ろさずに済んだ。2000年代に不採算の半導体や携帯電話事業を切り離す構造改革を先行して実施。財務の健全性を重視した「バランス経営」で手堅く利益を上げてきた。

 だが、技術の進化や社会の変化が速まり、従来のビジネスモデルが通用しなくなっており、バランス経営だけでは今後の成長が見込めない。そうした危機感を強めた杉山武史社長は今年に入り、ある策を講じた。

 東京・丸の内にある三菱電機本社26階。東京湾を見渡せる開放感のあるフロアに、ラフな服装をした社員が集う部屋がある。談笑しながら打ち合わせをしているのは、社長直轄のビジネスイノベーション(BI)本部のメンバー。各事業本部から選ばれた技術者たちだ。

 BI本部の設置は今年4月。従来の縦割り組織の弊害を改め事業本部間の連携を増やし、新たな事業を創出するのが狙いだ。BI本部が起点となり、外部企業と新たな事業を創出する「オープンイノベーション」を推進する方針も打ち出し、スタートアップに100億円を投資することも決めた。

 杉山社長は「これまでは各事業本部の技術の深掘りが三菱電機の強みだったが、自前主義では限界がある。オープンイノベーションを展開しないと変化に対応できなくなっている。われわれの考え方を転換しないといけない」と訴える。

 BI本部のメンバーは約30人。各事業本部のほか、本社の元事業戦略担当や米シリコンバレーの駐在員も在籍する。立ち上げ時は新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言の発令に伴い、リモートが中心だったが、半年たった今は社内に多くのメンバーが顔をそろえる。担当マネジャーの日高剛史氏は「2、3分の雑談が大事で、そこから実際にプロジェクトに発展した事例も出てきた」と手応えを感じている。

 BI本部が狙うのは、成長が期待される「モビリティー」「ライフ」「インフラ」「インダストリー」の4分野。新たな事業やサービスを創出するため、IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)、第5世代(5G)移動通信システムなどの先端技術をフルに活用する。

 手本とするのは、自動車機器事業本部が中心となって進めている自動運転システムの開発だ。開発には人工衛星を手がける電子システム事業本部や、オランダの外部企業も加わっている。今後はBI本部が起点となり、こうしたオープンイノベーションの取り組みを全社横断的に広げようとしている。

 BI本部のメンバーは出身母体の事業本部の窓口となり、開発に必要な技術のヒアリングを行い、他の事業本部との連携を探っている。自社に良い技術がなければ、スタートアップやパートナー企業にアプローチし、開発を前進させる役割を担う。

 オープンイノベーションは今では当たり前のスタイルだが、三菱電機は従来のビジネスモデルからまだ脱却できていない。ベテランのプロジェクトマネジャーの森垣努氏は「モノを作って売ることを長くやってきたので、正直なところ、サブスクリプション(定額課金)など新たなビジネスモデルに発想を転換するのに苦労している」と明かす。

 グループで約14万6000人の社員を抱える三菱電機は8つの事業本部があり、それぞれが1つの会社のように独立している。入社後に各事業本部に配属されると、半数以上の社員が異動せず、そこで定年を迎える。こうした社内構造が縦割り意識を生んできた背景にある。杉山社長は「今後は事業本部間の異動を増やす」とし、BI本部の設置を機に社内風土の改革にも踏み出す決意だ。

 現在、BI本部は月1回のペースでアイデア出しを行い、実用化に向けて議論を重ねている。すでに新型コロナや災害への対策など複数の開発プロジェクトが動き出している。森垣氏は「せっかくBI本部が立ち上がったので、生活やビジネススタイルを変える大きなイノベーションを起こしたい」と意気込む。

 優等生とされてきた三菱電機だが、足元の業績は厳しい。新型コロナや米中貿易摩擦の影響で主力のFA機器や自動車機器の販売が落ち込み、令和3年3月期の営業利益は前期比53.8%減の1200億円の見通し。営業利益率は前期の5.8%から2.9%に下がり、今期が最終年度となる中期経営計画の8%以上の目標は未達に終わることが確実だ。

 何より、成長を支えてきたFAや自動車機器事業で構成する「産業メカトロニクス」部門の利益率が年々低下している。杉山社長は「これから8つの成長事業に続く9番目、10番目の事業の柱をBI本部が中心となって立ち上げないと生き残れない」と危機感を隠さない。

 電機業界を取り巻く環境の変化は激しく、変革はスピードも問われている。新たな事業を生み出し、従来のビジネスモデルをどう転換していくのか。来年1月に創業100周年を迎えるのを前に模索が続いている。(黄金崎元)

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