水はけの悪い農園に雨水遮断用の特殊シートをかぶせ、過度な水分を防いで糖度の高い温州ミカンを生育する「マルチ栽培」の実証実験に、和歌山県と栽培農家が協力して取り組んでいる。今季の収穫期を迎え、甘みが増すなどの効果が確認されており、県は来年度も実証実験を継続。生産量、産出額に販売単価も加えた日本一〝3冠〟を達成したい考えだ。(西家尚彦)
県によると、平成30年産の温州ミカンの生産量は15万5600トンで15年連続、産出額は308億円で4年連続、それぞれ全国1位。一方、1キロあたりの販売単価は全国平均を下回る267円で、全国8位にとどまった。
県果樹園芸課によると、県内のミカン農園約7500ヘクタールのうち約1千ヘクタールは水はけが悪い平地にあり、担当者は「傾斜地に比べて水っぽいミカンが育ち、市場価格にも影響を及ぼす」と話す。
そこで県がJAグループと連携して今年夏から始めたのがマルチ栽培の実証実験だ。雨水を遮断する特殊なシートを農園に敷くことで、収穫期前の果実が水っぽくなるのを防ぎ、糖度を高める効果があるという。
従来のシートは風に飛ばされないように重しを置くなど手間もかかったが、特殊なシートは両端に鉄管パイプがあり、巻き取りも簡単にしている。
この特殊シートの設置費を県が補助する形で、産地の海南、有田、有田川、湯浅、広川、日高川の6市町の計13カ所で実証実験を実施。県やJAグループの関係者も手伝い、栽培地に特殊シートを敷いた。
有田川町でミカン農園を所有する永石睦巳さん(55)は収穫期を迎え、「同じ農園内でも、マルチ栽培のミカンはシート外で育ったミカンと比べ、明らかに甘みと酸味が増した。果実を包む皮も薄くなり、理想の食感になった」。有田市のミカン農家、九鬼秀介さん(42)も「白いシートで日光の反射を受けて、味覚だけでなく表面の色艶もよくなった」と効果を実感している。
こうした成果も踏まえ、県は来年度も新たに参加者を募り、実証実験を継続する方針。実証実験のデータも生産者に示し、普及させていく考えだ。
県果樹園芸課の担当者は「マルチ栽培の推進で県産ミカン全体の品質底上げにもつながり、生産量、産出額に販売単価も含めた日本一の3冠を目指したい」と意気込む。