リーダーの視点 鶴田東洋彦が聞く

湧永製薬・湧永寛仁社長(2) 優勝56回のハンドボール、ビジネスに生かす

 --湧永製薬といえばハンドボールというイメージが強い。東京五輪も待ち遠しい。ハンドボール部を立ち上げたきっかけは

 「父は関西学院大学ハンドボール部主将時にインカレで優勝した。入社後、ビジネスだけでなくハンドボールでも『世界で通用するチーム』を目指し1969年に創部した。50年の歴史の中で、これまでに国内4大大会で合わせて56回優勝を果たしている。一方でCSR活動の一環として小中学校へのハンドボール指導を通じて地域に密着した交流も図ってきた。ただ、父が愛していたハンドボールなのでCSRで終わらせたくない。世界を目指すし、ビジネスにも生かす。ハンドボールは世界展開にメリットがあると認識しているからだ」

 --ビジネスにどう生きるのか

 「ビジネスはネットワークをどれだけ持っているかが重要となる。当社は2012年にドイツチームへの選手派遣を開始。その後、スイス、アイスランド、スウェーデンと派遣国を広げていった。欧州はハンドボールが盛んで強国が多い。選手を派遣した企業は信頼されており、医療・医薬分野以外にも政治や行政の分野においてネットワークを得やすい。『紹介してほしい』といえばチームが積極的にサポートしてくれる」

 「実際、派遣先のチームにあいさつに行くと『こちらがミスター・ワクナガ』とさまざまな方を紹介してくれる。スポーツクラブを持つメリットは大きく、普通なら『あなたは誰』といって会ってくれない相手のところにも行ける。スポーツはビジネスの壁を越える可能性を十分に秘めている。世界展開の足がかりにしたい」

 --障害者スポーツも応援している

 「アンプティサッカーといって上肢、下肢の切断障害を持った選手がプレーするサッカーの普及・啓発活動に協力している。サッカーに生きがいを感じ、打ち込んでいる姿を見ると心が熱くなる。人生において生きがいを見つけるのが重要であり、それをかなえられることがスポーツの素晴らしさだ。われわれの使命でもある「生き生きワクワクした毎日」の提供にもつながる。社会的意義も高いので、14年から大会『レオピン杯 CopaAmputee』を開催している。日本代表として日の丸を背負う選手をここから送り出したい」

 --広大で素晴らしい庭園があるとのことだが

 「湧永満之記念庭園(広島県安芸高田市)は父である湧永儀助が設計し、10年の歳月をかけて社員たちの手で造成した。1993年から地域の憩いの場として、春から秋にかけて無料公開し毎年多くの皆さんが来園している。約4万5000坪(東京ドーム約3個分)の園内では国内外から集めた500種・5000株を超えるバラを始め、秋には四季折々の風景が楽しめる。2020年度には、無料で「憩いの場」として市民へ解放していることや、社員の手造りであることが高く評価され都市緑化機構より「第8回 みどりの社会貢献賞」を受賞した。今後も地域の健康づくりや地域活性に貢献していきたい」

 --祖父が創業し父が継いだ。3代目(社長は4代目)として事業承継を考えていたのか

 「父は、私が大学時代に亡くなった。『社会人になってから話し合おう』と父と話していたため『家業を継いでほしい』といわれたことはなかった。父の急逝により、自分が会社のリーダーになることとなったが、会社の理念や文化、物事のとらえ方・考え方は自分と同じであったため、ここまで来ることができたと思う」

 --座右の銘は

 「志として『世界から病気をなくす』ことに取り組んでいきたい。私の代で当然達成できる目標ではなく、難易度は高い。ただ湧永製薬の文化として根付かせ、つないでいきたい」

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