高論卓説

「D2C」へのチャレンジは人材育成の機会 情報発信に長けた若手抜擢がお勧め

 昨年一年間で、デジタル技術の導入が一気に進んだ。リモートワークの環境が整備され、契約・取引業務は電子的に処理する、といった具合だ。道半ばの企業もあるだろうが、実現されるのは時間の問題だろう。(小塚裕史)

 消費者の行動様式も大きく変化した。巣ごもりの時間が増え、ネット通販や出前サービスの利用頻度が増加。商品・サービスを提供する企業は、顧客の行動変容に対応した取り組みを進める。個人向け商品を製造している企業を例にとると、電子商取引(EC)機能は必須となった。米アマゾン・コムや楽天などのECプラットフォームの活用に加えて、従来の商流である卸・小売会社を通すのではなく、直接消費者に販売する事業モデル、いわゆるD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)が注目を集める。

 百貨店、駅・空港の商業施設で商品を販売してきたような老舗企業でも、D2Cに取り組みだした。販売店舗や観光客の減少などの影響を受けないように、自社での販路開拓を目指す。「打撃を受けた企業や産地を支援したいと考える消費者数が増加」といった調査結果もあり、今後の成果が期待される。対象顧客と商品を絞り込み、D2Cのモデルで事業を展開するベンチャー企業も取引を増やしている。男性化粧品だけを販売、完全栄養食や顧客の好みに合う菓子をサブスクで販売する企業など、その種類は多岐にわたる。どういう人が買っているのだろうか、と思うものがあるかもしれないが、一定のファン層を集めている。

 D2Cを機能させるためには、顧客に認知してもらい、誘導する仕掛けが欠かせない。インターネットやSNS(会員制交流サイト)で広告・宣伝を効果的に行う。映えるための画像だけでなく、顧客をひきつけるストーリーが必要だ。「商品の良さ」は言うまでもないが、利用者にメリットを明確に伝え、共感を呼んでファンになってもらうための「企業・商品の世界観」を打ち出していくのだ。

 一度購入した顧客には継続して買ってもらうようにしたい。定額料金で一定期間サービスを受けられるサブスクが使われるケースも多い。いずれにせよ、新しい商品を増やして、SNSで情報発信するなど、顧客を飽きさせない工夫が不可欠だ。この一連の仕掛けづくりを自社で行うのは難しかった。だが、ECを簡単に始められるシステムサービスや、SNS活用を支援するコンサルティングサービスが次々と立ち上がり、安価に利用することができるようになってきた。特産品を取り寄せできる専門のECサイトや、ふるさと納税の仕組みを活用するのも手だ。

 ファンをひきつける世界観については、企業が自分たちで練り上げなければならない。顧客の声を収集・分析して自社の強みや対象顧客の嗜好(しこう)性を客観的に見直すことから始める。その上で世界観を明確にし、それに合ったメッセージを発信する。重要なのは、この取り組みを継続していくことだ。

 こういった取り組みには、SNSを日常的に活用している若手を抜擢(ばってき)することをお勧めする。商品への愛着が深まるとともに、新しいことへの挑戦を通じてリーダーを育成できる。経営トップも積極的に関与し、「圧倒的に不足している」と言われているデジタル人材を自社で育て上げてもらいたい。消費者の立場としても、ネット上での商品カタログを眺めるだけでなく、各企業の努力を知ることができると、さらに応援したいという気持ちになる。

 【プロフィル】小塚裕史(こづか・ひろし) ビジネス・コンサルタント。京大大学院工学科修了。野村総合研究所、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ベイカレント・コンサルティングなどを経て、2019年1月にデジタル・コネクトを設立し、代表取締役に就任。主な著書に『デジタル・トランスフォーメーションの実際』(日経BP社)。兵庫県出身。

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