高論卓説

自動車産業を左右するエネ戦略 日本勢ハイブリッドに猶予、急げ次の手

 昨年9月が始まりだった。習近平・中国国家主席が国連で2060年までのカーボンニュートラル宣言をした。そして、米カリフォルニア州のニューサム知事は州内におけるガソリン車の新車販売を35年までに禁止し、ゼロ・エミッション車(電気自動車、燃料電池車、プラグイン・ハイブリッド車)とすることを義務付ける知事令を発した。主導権を奪われてはならずと20年10月、日本は「2050年カーボンニュートラル」をついに宣言した。温暖化への対応が産業成長の機会と捉える時代を迎えたことに等しい。(中西孝樹)

 昨年末にカーボンニュートラルを実現に導く「グリーン成長戦略」が発表され、30年代半ばまでに国内で販売される新車を、全て電動車両に移行させる方針が示された。強みのハイブリッド車を排除するものではないが、40年までには新車全てをカーボンニュートラル車に移行させることで大枠決定している。二酸化炭素(CO2)をリサイクルし合成するカーボンニュートラル燃料(合成燃料)を燃焼する技術革新が進まなければ、ハイブリッド車の役割に終焉(しゅうえん)が訪れる。

 信頼性の高さと内燃機関の燃費性能で世界をリードしてきた国内自動車産業にとって、一定の時期をめどに業容の大転換を迫られることになる。中には、ビジネスモデルを根本的に変容しなければならない企業もある。2次、3次の下請け企業が、垂直分業されたものづくり産業のピラミッド構造に数多く存在する。新ビジネスを開拓し、時代をリードする好機であるが、さじ加減を誤れば根本から国内産業のものづくりの力を喪失しかねない。慎重な政策運営が問われるだろう。

 電動車への技術やビジネス転換以上に重要な論点は、再生可能エネルギーや水素インフラを含めた国家のエネルギー戦略の推進にある。環境規制とエネルギー政策を国家の産業育成戦略と同期させようとしているのは欧州連合(EU)と中国であり、新たに樹立されたバイデン米政権もこの流れに同調する考えだ。その中で、ハイブリッド神話にとどまっていても未来が開けるわけではない。クリーンエネルギーを基にしたハイブリッド車の次の技術を確立しなければ、国内自動車産業の危機は遅かれ早かれ訪れる。

 19年12月の欧州グリーンディールで先陣を切ったEUは徹底した脱炭素と域内産業育成を促進する考えだ。企業平均燃費を21年の95g/kmから30年までに50%削減する方針を決定した。同時に、ライフサイクルの各段階(原料調達・製造・使用・リサイクル・廃棄)における環境影響を定量的に評価するライフサイクルアセスメント(LCA)を導入する検討を進めている。これをハイブリッド技術で乗り越えることは容易ではない。

 脱炭素が遅れた日本のような域外からの貿易に対し、関税を賦課する炭素国境調整の23年の導入も検討が進む。バイデン政権も炭素国境調整を公約の一つとして掲げてきた。

 日本のエネルギーミックスでは、競争力をもはや担保できる情勢ではない。国家のエネルギー戦略がものづくりの国際競争力を左右する時代が訪れたのである。国内自動車産業はこの危機意識で満たされている。幸い、ハイブリッド車を35年までに排除することを目指す国家や地域は少数派であり、ハイブリッド技術はまだ健在で時間的な猶予はある。ここでの有望な収益性をしっかりと獲得し、ハイブリッドの次に向けた技術とビジネスの確立が急務である。

【プロフィル】中西孝樹 なかにし・たかき ナカニシ自動車産業リサーチ代表兼アナリスト。米オレゴン大卒。山一証券、JPモルガン証券などを経て、2013年にナカニシ自動車産業リサーチを設立。著書に「CASE革命」など。

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