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東京五輪、もしも無観客開催になったら… 

 尚美学園大学教授・佐野慎輔

 新型コロナウイルス禍が開会式まで半年を切った2020東京五輪・パラリンピックを苦しめている。厳しい環境下、国際オリンピック委員会(IOC)は先週、IOC委員や各国・地域オリンピック委員会と意見交換。トーマス・バッハ会長は「あらゆる可能性を想定して、準備を進める」と語った。バッハ氏は初めて「無観客」に言及。IOC委員で世界陸連(WR)会長のセバスチャン・コー氏も「唯一の方法は無観客」と述べており、IOCの公式見解のように映る。

 テレビ視聴者を意識

 大観衆の下で挙行されるのが通常だが、IOCに「無観客」への抵抗感は薄いように映る。彼らはむしろ世界で40億人とも言われるテレビ視聴者を強く意識する。視聴者があって初めて財源の7割以上を支える41.6億ドル(13~16年、現在の換算レートで約4300億円)もの放送権料を得ることが可能となる。無観客でも、テレビ放送ができれば支障はない。

 観客へのこだわりは組織委員会の方が強いように思う。観戦チケット売り上げを900億円と想定。ゼロ収入は避けたい。同時に開催レガシーを後世に残すためにも、たとえ少数でも国内観戦者を競技会場に迎えたい。

 有人か無観客とするか。悩ましい葛藤はまだ続くにちがいない。無観客に向け、インターネットサイトの活用を思う。

 五輪の映像は、IOCが01年に設立したオリンピック放送機構(OBS)が国際信号を制作し、放送権を持つ各国・地域の放送業者に配信。それぞれ日本向けや米国向け、欧州向けに編集し放送される。

 ネット配信で課金も

 国際映像を使い、インターネットでの動画配信が始まったのは08年北京大会。米NBC(3大テレビネットワーク)や日本のNHK、民放キー局5社を中心に創設された「gorin.jp」(現在はTVerが運営)など放送権を持つテレビ局が特設サイトで対応した。

 当初はテレビの補完的な役割ではあったが、12年ロンドン、16年リオデジャネイロとIT環境の整備に伴い、存在感が増大。IOCは自らリオの開会式に合わせてインターネットテレビ局「Olympic Channel」(本社マドリード)を開局、さまざまな動画コンテンツの提供を始めた。

 18年の平昌冬季大会ではスマートフォンやパソコンによる視聴を飛躍的に伸ばした。IT関係者は、「平日勤務時間帯の視聴が目立ち、午前中はスマホ、昼休みはパソコンの配信が数値を伸ばした」と話す。

 総務省『令和2(2020)年版情報通信白書』によると、19年におけるスマホの世帯保有率は83.4%。かねて東京大会ではネットの活用が指摘されてきたが、コロナ禍による観戦環境の変化は、よりネットの存在を高めていく。ネットの動画配信が得意とする「見逃し配信」や「放送がない競技のライブ配信」また「ハイライト動画」の需要拡大はいうまでもない。

 ここに課金の網をかけられないだろうか。会員制、あるいは視聴料徴収といった仕組みを設け、通常の配信に加えて、競技や選手、参加国などの「特別情報」の提供や「米国、欧州向け映像」の日本配信などのインセンティブを付与するのである。

 ネット観戦を活用した戦略は新しいビジネスを生むのでは、と妄想する。そのためには、大会開催が前提となるのだが…。

【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年富山県高岡市生まれ。早大卒。サンケイスポーツ代表、産経新聞編集局次長兼運動部長などを経て産経新聞客員論説委員。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大および立教大兼任講師などを務める。専門はスポーツメディア論、スポーツ政策とスポーツ史。著書に『嘉納治五郎』『中村裕』『スポーツと地方創生』(共著)など多数。

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