高論卓説

バイデン米政権の「戦略的忍耐」 不明瞭で中国をつけあがらせないか

 バイデン米政権が誕生し、このところ静かであった中国の習近平国家主席が発言を強めている。対中強硬策を選んだトランプ前政権、それに対して姿勢を明確にしていないバイデン政権だが、米国議会は中国に強硬であり、中国に対して弱気の対応を取れば議会の反発が強まる構図になっている。また、国防権限法などで求められている制裁は大統領といえども簡単に解除できない。(渡辺哲也)

 現在、バイデン政権は中国の世界秩序への挑戦を否定し、それを「戦略的忍耐」で対応するとしている。これをどのようにとらえるかということになるが、当面は、制裁解除も制裁強化もしないということになるのではないだろうか。かつてのオバマ政権の末期状態の継続である。中国に融和的な政策を取った第1次、それに対して第2次の末期には政策を転換し、中国を脅威ととらえた対応に切り替え始めた。南シナ海対応がその典型である。

 しかし、これは理念的側面が強く、実際には航行の自由作戦などの軍事的対応に限定されていた。経済・安全保障という概念に直接的に関与していなかった。これを転換したのがトランプ氏であり、関税で中国の価格競争力を低下させて国内産業を保護。輸出管理の強化などで先端分野で中国を排除した。トランプ氏は仕上げとして、これを最大限高めてバイデン氏に政権を引き渡した。

 当然、このハードル引き上げに対して、米国内からも批判が出ている。だが、これは米国の安全保障の問題であり、これからも覇権を維持できるかという米国の国家の命運を握る問題である。それはウイグルやチベット、香港問題など人道的側面からも脅威の排除が必要となっている。

 これからバイデン政権は、いくつものジレンマに直面すると考える。既に中国はオバマ政権時の中国ではなく、共産主義に回帰した中国である。国連などの国際機関は一国一票が基本原則だが、これを逆手に取る形で中国はアフリカや新興国などの票を抑え、半数以上の基礎票を持っている。米国が主導できる状態にはない。南シナ海の人工島については、習氏は2015年に軍事利用しないと国際社会に約束したが実際には要塞化されており、宇宙航空分野、北極問題などを含め軍事的な拡大は米国にとっての直接的な脅威に変化している。

 冷戦終結後、中国は最終的な完全な民主化、経済の自由化を約束し、自由社会の一部になった。WTO(世界貿易機関)に加盟する際も、国有企業などの撤廃や輸出、資本規制の撤廃を約束したが、それを守っていない。それどころか新興国としての優遇を求め続けている。

 また、人民元をSDR(特別引き出し権)構成通貨に入れる際も、為替の自由化、資本移動の自由化を約束したが、それも守られていない。

 中国は何一つ約束を守っていない。これこそがトランプ氏が新秩序構築に動いた理由であり、中国排除の根幹にある。トランプ氏からバイデン氏に政権が代わり、米中の緊張緩和を期待する声も大きいが、逆に中国の暴走という形で脅威が増す可能性も高い。政権と世論、議会とのハネムーン期間は100日間だ。この間に明確な方針を出す必要がある。

【プロフィル】渡辺哲也(わたなべ・てつや) 経済評論家。日大法卒。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。著書は『突き破る日本経済』など多数。愛知県出身。

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