【トップバイヤーの男前研究所】新型コロナウイルスの感染拡大による店舗休業などが影響し、服飾業界の厳しい状況が続いています。ブランドからの受注が減る中、技術や雇用を守るため、アパレル工場が自社ブランド、いわゆる「ファクトリーブランド」を立ち上げる動きがあります。
その一つが、縫製工場の「バーンズファクトリー」です。ファクトリーブランドはこれまで、「モノは良いけれど、デザイン性が低い」といわれることもありました。そうしたイメージを打破すべく、同社は親会社である染色加工会社「ソトー」とともに、ファッションの専門家とタッグを組みました。
一つは、“ちょい不良(ワル)オヤジ”ブームの仕掛け人で、ファッションディレクターの干場(ほしば)義雅さんがプロデュースする「MOVB(モーヴ)」。そして、ユナイテッドアローズのクリエイティブアドバイザー、鴨志田康人さんが監修する「バーンズファクトリー」です。
MOVBは昨年秋に立ち上げ、これまではオンラインのみでの販売でした。鴨志田さん監修の服はこの春にデビューする予定です。いずれも実店舗では初めて、27日から2月21日まで松屋銀座で取り扱います。機会があれば、袖を通し、上質な着心地を確かめてみてください。(松屋銀座紳士服バイヤー 土屋裕行)
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1月下旬、東京・練馬の住宅街の一角にある「バーンズファクトリー」の工場を訪ねた。高品質なニット生地の製造や縫製技術に定評のある同社は、主にブランドからの委託で製品を作るかたわら、オリジナルのニット製品も手掛ける。松浦永(ひさし)社長(61)は「着心地の良さにこだわっています」と話す。
工場の一角で、男性社員がモニター画面を見つめながら、自動裁断機を操作していた。画面にパンツの型紙が映し出され、正確にジャージー素材の生地が裁断されていく。自動裁断機を使うと、切断面がシャープで、製品の仕上がりがよりすっきりしてみえるという。
裁断された生地を、今度は職人が縫い合わせる。同社では、2本の針の特殊なミシンで、生地を重ね合わせずジグザグに縫う「突き合わせ技法」を採用。縫い代がない分、仕上がりは軽く、滑らかだ。
こうした熟練職人の技と感性で品質にこだわった服作りを続けてきた同社だが、新型コロナウイルスの感染拡大以降、「ブランドからのオーダーは激減し、非常に厳しい状況」と松浦さん。
自社ブランドの立ち上げは、こうした状況を打破するためであり、松浦さんが長年温めてきた夢でもあった。新型コロナ禍でなかなか服が売れない今、「高品質なものを適正な価格で販売するのが大切」と、松浦さんは考える。
「(自社ブランドは)『僕らが作っている』という実感が強く、現場のモチベーションにもつながっている。商品力には十分に自信があるので、これからブランド力をつけていきたい」と力を込めた。