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ローカル5G本格運用へ加速 電機大手、高付加価値サービス実証・ラボ開設

 特定の地域に限定し、第5世代(5G)移動通信システムを運用する「ローカル5G」の活用に向け、電機大手の動きが活発化してきた。昨年12月に総務省はローカル5Gで使用する「Sub6(サブシックス)」と呼ばれる新たな周波数帯の免許申請の受け付けを開始。今年後半以降とされるSub6の本格運用に向け、電機各社は実証実験を開始したほか、協業先と共同研究を行う「オープンラボ」の設立が相次ぐ。急成長が見込める市場だけに、ローカル5Gを使った省人化サービスなどの開発に全力を挙げる。

 省人化や遠隔制御

 ローカル5Gは携帯電話会社以外の企業や自治体が免許申請し、自社や顧客の建物や敷地で5G網を活用する取り組み。高速大容量、低遅延のほか、1つの基地局で多くの端末に接続できるのが特長だ。

 工場や物流拠点の省人化、建設機械の遠隔制御、電力設備などの社会インフラや交通インフラの監視、農作業の自動化など幅広い用途で活用が期待されている。

 ローカル5Gで使用される周波数帯は2019年12月に免許申請を受け付けた超高速で大容量通信が可能な28.3ギガ~29.1ギガヘルツ帯の「ミリ波」と4.6ギガ~4.9ギガヘルツ帯のSub6の2つがある。

 総務省によると、エリアを広く構築できるSub6への関心が高いという。ミリ波は免許申請の受け付けから約1年で27件(1月25日現在)だったのに対し、Sub6は約1カ月で製造業や通信会社、自治体、ケーブルテレビ事業者など27件に達している。

 そのうちの1社の三菱電機は、3月に同社の情報技術総合研究所(神奈川県鎌倉市)に顧客やパートナー企業と共同研究や実証実験を行う「5Gオープンイノベーションラボ」を開設する。

 既に昨年から名古屋製作所(名古屋市東区)で、工場を自動化するファクトリーオートメーション(FA)機器とローカル5G基地局との間の伝送試験も行っている。ローカル5GとFAを組み合わせた付加価値の高いサービスの展開を視野に入れる。

 また、縦割り意識が強い同社は昨年4月に全社横断での事業展開を可能する社長直轄のビジネスイノベーション(BI)本部を立ち上げたが、ローカル5Gは同本部が起点となり、さまざまなサービス創出を目指す。日高剛史担当マネージャーは「三菱電機が力を入れるFAや電力、交通インフラ、自動運転と融合させることで違う価値を生み出したい」と大きな期待を寄せる。

 一方、NECも昨年11月にコニカミノルタ、KDDIと3社でコニカミノルタの「イノベーションガーデン大阪センター」(大阪府高槻市)内に「ハイブリッド5Gオープンラボ」を開設した。携帯電話会社の5Gとローカル5Gという“ハイブリッド”の開発環境で実証実験を行い、新たなサービスを創出するのが狙いだ。

 同社はバスの自動運転や自然災害を想定した工事現場の無人化施工など約10件の実証実験も始めている。2023年度までに100以上の企業・団体にローカル5G関連の製品やサービスの提供を目指す。NECの網江貴彦執行役員は「特に省人化・リモート化のニーズが高い製造、建設、流通、交通、公共の市場を中心に推進したい」と意気込む。

 昨年に国内初のローカル5Gの無線局を開設した富士通も事業拡大に力を入れる。「800件以上のローカル5Gに関する問い合わせが企業や団体からあった」(広報)。同社はローカル5G関連で、20~25年度に累計1000億円の売上高を目指している。このほか日立製作所や東芝インフラシステムズもミリ波の免許を取得し、ローカル5Gの商用化に備える。

 顧客に魅力的提案

 電機大手がローカル5G事業に力を入れるのは成長市場として期待しているためだ。電子情報技術産業協会(JEITA)によると、国内のローカル5G市場は25年に3000億円、30年に約1兆3400億円に拡大する見通し。

 また、電機大手はビジネスモデルを従来のモノづくりから、デジタル技術を活用したサービスに転換している。ローカル5Gは既存の製品事業などと組み合わせることで付加価値を生み出しやすいというのも各社が積極的に参入している理由の一つだ。

 例えば、電機大手が提供する機器やシステムとローカル5Gを組み合わせることで、工場内のケーブルが不要となり、レイアウトがしやすくなる。ローカル5Gを使って無人搬送機を走らせることができれば、省人化を顧客に提案ができる。まだ現状は各社とも実証実験の段階だが、今年後半にも本格運用が始まり実績が確認され、基地局のコストも下がれば、さまざまな分野への応用展開が可能になる。(黄金崎元)

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