息がしやすく、蒸気で乾燥防ぐ
世界中で感染拡大している新型コロナウイルス。各国でマスク着用が有効な防御策として推奨され、国内でも一時店頭からマスクが消えるという事態にも陥った。今回の「これは優れモノ」はコロナ禍以前から、新たなマスク需要を喚起した製品について取材した。
二律背反の機能実現
「朝起きた時に喉がイガイガするという消費者の声から開発しました」と話すのは小林製薬日用品事業部サーモ&ウェルネスケアカテゴリーの木村友亮(ゆうすけ)さん(32)。所属の部門では、マスクやカイロ、熱さまシートなどの開発・マーケティングを行っている。
喉や鼻の粘膜には、細菌やウイルスが体内に侵入するのを防ぐ働きがある。冬場に風邪をひきやすくなるのは、乾燥が原因の一つで、粘膜の働きが弱まるからともいわれている。マスクをつけると自分の吐く息で加湿され、喉・鼻の乾燥を防ぐ効果がある。睡眠時にマスクをつければ、朝起きた際の喉の違和感は緩和されるはず。しかし、息苦しさを感じることに抵抗感を持つ人も少なくない。
加湿力を高め、息苦しさを低減するという二律背反の機能を求めて同社が2006年に開発したのが「のどぬ~る ぬれマスク」。同品は初年度で5億円の売り上げを計上した“優れモノ”。「当社が全く新しい市場を創出したと自負しています」(木村さん)。
このマスクは、着用の際に水分がたっぷり浸み込んだぬれフィルターをマスク内側のポケットにセットする。浸み込んだ水分が呼気によって蒸気となり、喉を潤すという仕組みだ。
元を覆うぬれフィルターには穴をあけ、マスクの不織布も薄手のものを採用するなど、通気性の確保にも気を配った。
「当時の開発メンバーは、市場のさまざまなマスクを就寝時に試して、最適な形状や素材を導き出しました」と木村さんは先輩社員らの開発の模様を説明した。
豊富なラインアップ
ところでマスクの歴史をたどると、14~17世紀にかけて欧州で大流行したペスト(黒死病)に行き着く。当時は空気感染すると信じられていたので、患者を診察する医師がくちばし状のマスクを被り、感染を防ごうとしたのだ。日本国内で現在のようなマスクが普及したのは、1918~20年に大流行したスペイン風邪(H1N1新型インフルエンザウイルス)によるものだった。以来、風邪予防や近年には花粉症対策には欠かせないアイテムとなっている。
国内でマスクは、家庭用、医療用、産業用の3タイプに分類される。このうち家庭用や医療用で一般的に使われている素材が不織布。文字通り織っていない布のことで、通気性がよく、細かな塵などを捕える特長を持っている。「のどぬ~る ぬれマスク」では、不織布の中でも同社の品質基準にあったものを採用しているという。「就寝用のほか、日中用や温かい蒸気でのど・鼻をうるおすタイプなどもラインアップに取りそろえています」と木村さんはにこやかに語った。
≪interview 担当者に聞く≫
小林製薬 日用品事業部 サーモ&ウェルネスケアカテゴリー・木村友亮氏
快適に喉を潤すことでヒット商品に
--昨年は店頭からマスクが消えた
新型コロナウイルス対応による需要の急増で国内生産が追い付かなかった。マスクの争奪戦が世界規模で繰り広げられ、主要な原材料の輸入が滞ったということもあり、コロナ前と同一の不織布の入手が困難になった時期もあった。このため、機能・品質については同一でも、これまでとは外観や着用感が若干異なる不織布を使用することもあった。ずっとご使用いただいているお客さまにきちんとお伝えしたほうがよいと考え、パッケージにその旨の断りを入れたりもした。
--マスク市場も拡大している
一般向けのマスク市場は2019年に790億円程度だったが、20年は3100億円ほどと約390%アップを記録した。不織布のマスクは機能やコスト面で優れているが、使い捨てのため、1人が少なくとも1日1枚は使う計算になる。コロナ対策でほとんどの国民がマスクの着用をすることになったため、市場が急拡大した。
--「ぬれマスク」がヒットした理由は
消費者の声に細かく対応できたことが大きかったのではないか。それまでのマスクと違って、喉を潤すことで、より積極的に体をガードする方法を模索して生まれた商品だ。この商品の発売後、他社でも同様な加湿マスクを発売したが、当社製は15年から累計で加湿マスク市場ナンバーワンの売り上げをキープしている。特長である、ぬれフィルターが10時間にわたって加湿する機能の高さや、耳が痛くなりにくいゴムの採用などが消費者の支持を受けている理由だと思われる。
--さまざまなタイプの商品をリリースしている
就寝用、昼夜兼用、電子レンジで温めて着用するものなど使用シーンに分けて使っていただけるようにしている。マスクの形状もプリーツタイプのものと会話がしやすい立体タイプやハーブなどの香り付きのものも販売している。国内での認知度をさらに高めていくとともに、喉や鼻を保湿することの良さを伝えていく活動も注力したいと考えている。
■フジテレビ商品研究所
「企業」「マスコミ」「消費者」をつなぐ専門家集団として1985年に誕生した「エフシージー総合研究所」内に設けられた研究機関。「生活科学」「美容・健康・料理」「IPM(総合的有害生物管理)」の各研究室で暮らしに密着したテーマについて研究している。
https://www.fcg-r.co.jp/lab/