メーカー

国際金融都市へ埋まらぬ溝 意欲先行の大阪府市、経済界は慎重姿勢

 政府が主導し、大阪府が名乗りを上げる「国際金融都市構想」で、大阪府市と経済界の溝が埋まらない。海外金融機関や投資家を呼び込むこの構想そのものについては、府市も経済界も関西経済の浮揚につながると期待する。ただ、経済界は、実現に向けた具体像のすり合わせが進まない現状に不満で、「人やカネだけ求められても困る」と慎重姿勢を貫く。年度内に官民一体の推進組織が立ち上がる予定だが、顔となる会長選びも見通しが立っていない。

 1月18日、大阪市役所で構想をめぐる非公開会合が開かれた。主な出席者は吉村洋文大阪府知事と松井一郎大阪市長、SBIホールディングス北尾吉孝社長、同社顧問で大阪堂島商品取引所の社長に就任予定の中塚一宏前金融担当相。4人は構想実現のキーマンとされ、松井氏と北尾氏は初顔合わせだった。

 北尾氏は証券取引所を介さず売買できる私設取引所「大阪デジタル取引所」を2022年に大阪で開設し、海外取引所と連携させる構想を披露。中塚氏は堂島商取が4月の株式会社化に向け海外商品先物業者やヘッジファンドと協議していることなどを説明した。

 「40、50年かかる」

 構想実現に熱を込めて話すSBI側に対し、府市側が質問したのは「大阪が国際金融都市を目指す意義、メリットは何か」「国にどんな要望すべきか」という基本的な内容。「知事や市長はまだ構想にピンと来ていないのではないか」。議論が突っ込んだ内容まで及ばず、出席者は戸惑いを隠せなかった。

 知識はさておき、国際金融都市実現に向けた吉村氏らの意欲は高い。関係者によると、意見交換は松井氏側の要請で実施。背景にあるのは、昨年12月23日に開かれた府市と地元経済団体との初会合で想定以上に経済界が慎重だったことだ。

 会合で吉村氏は、アジアのデリバティブ(金融派生商品)拠点や、規制緩和により金融とITを組み合わせたフィンテックの活用を目指すと説明。さらに25年大阪・関西万博の開催に合わせて「国際金融都市OSAKAを実現する」とした。

 しかし、経済界からは「具体的な課題や工程表の議論が重要だ」との意見が繰り返し出た。関西経済同友会の古市健代表幹事は「(海外の例を見ると)国際金融センターになるには40、50年はかかる」と指摘、着実な工程表が必要との見方を示した。

 吉村氏は会合後、「(25年までに)入り口に立てればという感覚」と軌道修正。その後、所得・法人減税や在留資格の緩和を行う「金融特区」を同年までに実現したいと目標を示した。

 難航する会長人事

 また、初会合で示されたスケジュールでは、年度内に誘致に向けた官民による推進委員会が立ち上がる。焦点は「組織の本気度合いが伝わる」(財界関係者)会長ポストの人選だ。ただ落としどころは見えていない。

 会長には当初、経済界の取りまとめ役として財界幹部の名前が挙がったが、幹部は「金融分野のプロではない」と固辞したという。代わりに浮上したのは、吉村知事が当面トップに就くアイデア。金融に明るい人材の調整がつくまでの暫定会長という位置付けだ。

 構想の「言い出しっぺ」とされるSBIの北尾氏をトップに招く案もある。金融特区選定を国に求める上で「突破力がある北尾氏しかいない」(メガバンク関係者)との考えからだ。

 ただ、関西財界では「SBIは利害関係が強すぎる」という意見が中心的。私設取引所の開設や、出資する海外フィンテック企業の誘致に動く北尾氏がトップに就けば、特定企業の活動を支援しているとみられかねないと懸念する。

 先行して国際金融都市を目指す東京都は、官民組織「東京国際金融機構」の代表理事を元日本銀行副総裁の中曽宏氏が務める。大阪でも企業色が薄い人物が望ましいという声がある。

 構想を関西全体で連携して進めるべきだとの考えも出ているが、結論は出ていない。

 冒頭の4者会談では、北尾氏が隣接する兵庫県や神戸市との連携が重要だと力説したが、吉村氏や松井氏の反応はなかった。関経連なども関西広域での推進を主張するが、吉村氏は「船頭が多くても方向性は定まらない」として、現時点では大阪独自に進める考えだ。

 「選挙が終わるまでは連携を言い出せない」。日本維新の会のこうした思惑が背景にあるとも指摘される。今年の兵庫県知事、神戸市長選挙を控え、独自候補擁立を目指す維新としては、維新でない現職首長が率いる自治体との連携は言い出せないというわけだ。

 一方の兵庫県や神戸市側も「関西広域連合で議論すればいいと思うが(政権の動きを見ていると)国の政策課題として優先順位は下がっているのではないか」(神戸市幹部)と慎重だ。

 市場関係者からは「大阪、関西が金融都市として焦点が当てられるのは初めて」と期待は高まるが、関係者間の思惑は一致しない状況が続いている。(岡本祐大)

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus