ガバナンス経営の最前線

(2)透明性高い体制構築を評価

 6回目となった「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー」。今回は新型コロナウイルスの感染拡大防止に配慮し、オンライン中継を組み合わせた表彰式となった。コロナ禍で先行きの不透明感は強いが、こういう時だけにガバナンス経営の重要性が認識できる貴重な機会となった。

 大賞のキリンホールディングスについて、審査委員長の斉藤惇氏(日本野球機構会長・プロ野球組織コミッショナー)は、「社長自らマイケル・ポーター教授に会い、彼の唱えるCSV、すなわち積極的社会貢献を実践することによって企業の成長と財務的価値を拡大するというテーマに先頭に立って取り組んでいる。同社のコア技術である発酵バイオテクノロジーをベースとして、社会が求める価値を創造することによって社会に貢献するという企業目的を明確にし、その実践に当たって多様性に富んだスキルの高い外部人材を経営に招き、透明性の高いガバナンス体制を構築している」と評した。

 一方、入賞企業に選ばれたアドバンテストについて、審査委員の伊藤邦雄氏(一橋大学CFO教育研究センター長)は、「取締役会では毎回3~4時間、社外も積極的に参加してフランクに活発な議論が行われている。取締役会の後押しで、はじめて中期経営計画で数字の目標値を定めることができたことに象徴されるように、経営トップも取締役会の価値を高く評価している。特に、同社が属する半導体製造装置業界は業績変動が大きいビジネスだが、同業界に特有のリスクや成長可能性を意識した資本コストの設定、それに基づく投資決定に工夫が凝らされている点が注目できる」と述べた。

 同じく入賞したテルモについて伊藤氏は、「取締役会議長を会長が務めているが、社長経験者が会長として議長となる従来パターンとは異なる点に特徴の一つがある。指名委員会が、経営チームとしての観点から社長と会長をセットで選ぶという考え方を取っている。前社長はそのまま会長にならずに退任しており、自律的ガバナンスが効いている証左といえる。指名委員会、報酬委員会以外にガバナンス委員会を設置し、自由にガバナンスのテーマを議論しており、ガバナンスの向上に向けて持続的努力をしている」と高く評価した。

 この賞は、コーポレートガバナンス・コード全原則が適用される東証1部上場企業(2172社、2020年8月1日現在)の中から、2018~20年を通じて社外取締役3人以上を選任していた企業881社を対象に、稼ぐ力の指標として、3期平均ROE10%以上、ROA5%以上(金融は3期平均ROE10%以上、ROA2%以上)、社会への貢献度の指標として時価総額1000億円以上である企業118社を抽出した。

 さらに、ガバナンス体制整備の指標として、特定の大株主がいない、開かれた株主比率(30%以下)、独立社外取締役比率(3分の1以上)、組織形態(指名委員会等設置会社)、指名・報酬委員会(任意も含む)の設置、取締役会の多様性、指名・報酬委員会(任意も含む)委員長の独立性、取締役会議長の執行からの独立性、パフォーマンス評価として、みさき投資による経営指標分析を活用、時価総額や営業利益の安定性などの総合評価を行い、3社を選出。審査委員によるトップマネジメントへのインタビュー調査を行い、大賞企業を決定した。

 キリンホールディングス〈Grand Prize Company〉 磯崎功典社長

 多様な人材 筋肉質で骨太な議論

 --大賞企業に選ばれた

 「長期経営構想『キリングループ・ビジョン2027(KV2027)』では『食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる』ことを目指している。事業を通じて社会課題の解決に取り組み、成長機会に変えていくCSV経営を実践していくためにはガバナンスが非常に重要だ。その実現には多様な人材で構成され、筋肉質で骨太な議論ができる取締役会が重要である。今後もキリングループ全体をしっかり管理監督できる制度・体制を構築し、ステークホルダーの皆さまとの対話を重ねることでコーポレートガバナンスの実効性を高めていく」

 --自社のガバナンス体制の効果をどう考えるか

 「取締役会の果たすべき役割は“重要な意思決定”機能と“監督”機能であると考えるが、特に実効性ある取締役会とするためには、特に後者のモニタリング機能を重視している。現在の取締役会メンバー12人のうち、独立社外取締役7人、社内取締役が5人と過半数が社外取締役である。スキルセットでも多種多様な人材がそろっているため、さまざまな角度から建設的な意見が出る。議長は独立社外取締役が務めているため、執行に偏らず、適切なアジェンダ設定とファシリテーションのもと、筋肉質で骨太な議論が展開できている」

 --今後の展望は

 「不透明・不確実な時代だからこそ、社会課題も刻々と変わり、経営の優先順位、打ち手も変わってくる。そして投資家を含むあらゆるステークホルダーを意識し、決して独りよがりになってはならない。そのためには、多様な視点、バックグラウンド、知見に基づいた意見交換により、客観的かつ多面的な論議ができる取締役会が必要であり、取締役候補者の選定が重要になる。社会の変化、経営戦略の変化に伴い、取締役会の機能の維持・向上が今後ますます重要になってくる」

 ≪受賞企業のコメント≫

 アドバンテスト〈Winner Company〉

 代表取締役兼執行役員社長(CEO) 吉田芳明氏

 リーマン・ショック後、厳しい業績が続きましたが、コーポレートガバナンスコードの制定を機にガバナンスを強化してきました。社外取締役の後押しで2018年4月に中長期経営方針であるグランドデザインと中期経営計画を発表し、全社一丸となって“稼ぐ力”を磨いてきました。当社グループで働く全員の努力の結果であり、皆で喜びを分かち合いたいと思います。今後もおごることなく、当社の企業価値向上に努めてまいります。

 テルモ〈Winner Company〉

 代表取締役会長 三村孝仁氏

 当社は、急速なグローバル化や経営体制交代を契機に、2010年代初頭から、ガバナンス委員会の設置など、試行錯誤の上で独自のガバナンス体制の構築・変革に取り組みました。その後、コーポレートガバナンスコードを踏まえた対応等を加味し、現在の体制に至っています。当社は本年で創立100周年を迎えます。記念すべき年の受賞を励みに、さらなる企業価値向上を図ってまいります。

 TDK〈特別賞・経済産業大臣賞〉

 代表取締役社長 石黒成直氏

 TDKは、これまでもガバナンスの向上に取り組んできましたが、人材やサクセッションについてはまだ課題もあるものと考えております。世界情勢の変化が激しい現在においては、グローバルでの多様なタレントの力の結集がより重要になってきます。そこで中期経営計画ではガバナンス改革の一環として、グループガバナンスやグローバル人材計画の改革を進めています。今回の受賞を糧に、今後ともガバナンスの改革に努めてまいりたいと思います。

 ライオン〈特別賞・東京都知事賞〉

 代表取締役社長執行役員 掬川正純氏

 ライオングループは地球規模で広がる環境問題に対し、長期環境目標『LION Eco Challenge2050』を策定し、持続可能な社会への貢献と事業発展の両立を目指しています。現下の情勢において、当社のパーパス『より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する』の重要性を改めて強く認識しました。この度の受賞を更なる励みとし、今後もアジアを中心としたより多くの生活者に対し、このパーパスを実践することで社会価値・経済価値を創出していくとともに、引き続きESGに注力した経営を推進いたします。

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