ガバナンス経営の最前線

(3)感染拡大防止の観点から関係者のみが会場に参集

 今回のコーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤーの表彰式は、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から関係者のみが会場に参集。例年行われてきた懇親会も実施しなかったが、これに代わり同協会の設立20周年を記念した基調講演と、審査委員や受賞企業の経営トップらを招いたパネルディスカッションを実施し、この様子をオンライン中継した。

 ≪基調講演≫

 日本取締役協会副会長・冨山和彦氏

 「コロナ後のコーポレートガバナンス」 変革・成長のスピードアップを

 表彰式に続いて開催された「日本取締役協会20周年記念シンポジウム」では、まず日本取締役協会副会長で経営共創基盤IGPIグループ会長の冨山和彦氏による「コロナ後のコーポレートガバナンス」と題する基調講演が行われた。

 登壇した冨山氏は「目下のコロナ禍で経済は混乱しており、その回復にも険しい道が予想される」とした上で「だからといってガバナンス改革が緩むということは百パーセントない。むしろ加速するだろう」との見方を示した。

 その理由として、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速、止まらないグローバリゼーションなどを挙げ「破壊的イノベーションの時代は続く。猛烈な変化が続くということは、戦略を練り大胆な決断もしなければならない。経営者の負荷は高まる」と予想。「こういう環境下だからこそ、日本企業のガバナンス改革の必要性はより高まっている」との認識を示した。

 あわせてガバナンス改革が遅れた日本企業が“失われた30年”の間に米国や欧州の企業よりも企業価値や成長の面でも大きく遅れ、世界のトップ企業群からその名が消えてきた実態を例示。「コーポレートガバナンスの弱い日本企業は欧米企業に比べ改革が適宜できてこなかった」と振り返った。

 その上で、日本のガバナンス改革の現状についても言及。

 「20年前からすれば隔世の感もあるが、整いつつある“形式”を“実質”に変え、日本企業の変革のスピード、成長のスピ-ドを早めるとともに、より多様なグローバルなフィールドで勝ち残り、稼いでいけるような企業体を作り上げていくべきだ」と提言した。

 また、日本における株価に対する認識にも触れ「株は一部の金持ちが金持ちになる手段だと思われがちだが、実際はどこの国でも最大の株主は年金や大学の基金だ。これは日本も例外ではない」と指摘。「株価を上げていくのはある意味では公的な責任。企業が収益を上げ、企業価値を高めるのは、それ自体が重要な社会的責任だ」と強調した。

 ≪パネルディスカッション≫

 大事にしたい社外取締役の意見と視点

 基調講演に続き、コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー審査委員長でプロ野球組織コミッショナーの斉藤惇氏、日本取締役協会副会長でオムロン取締役会長の立石文雄氏、コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2018の大賞受賞企業であるヤマハの取締役代表執行役社長の中田卓也氏(オンラインで参加)をパネリストに招いたパネルディスカッションが行われた。モデレーターはボードアドバイザーズのシニアパートナー、安田結子氏が務めた。

 この中で、自社におけるコーポレートガバナンスの存在意義を問われた立石氏は、オムロンが企業活動を通じて世界の社会的課題解決に挑んできた企業のあり方を紹介するとともに「オムロンにとってコーポレートガバナンスはイノベーションを起こすための仕組みだ」と述べた。

 一方、ガバナンス改革を自ら先頭に立って進めた中田氏は、指名委員会等設置会社への移行を果たし、経営と執行の分離を明確化したことのメリットとして「(取締役が)経営の将来を議論し、決断し、その執行を監督することに特化できたこと」を挙げるとともに、「社外取締役は強力な非常ブレーキの役割を果たし、一方で賛成いただいた場合においてはしっかりとした後押し役として機能しているため、執行側が思い切って業務を進められる」と現状を紹介した。

 斉藤氏は、こうした取り組みを進める先進的な企業があり、制度面の整備も進んではきたが、全体としては「米国より15年程度遅れている」との見方を示した。特に、意識の遅れを牽制し、「社外取締役として“就職”したと考える人もいるが、社外取締役は“株主の代表”という意識が必要とされる公的な仕事だ」と苦言を呈した。

 昨年来、多くの企業で事業計画や長期戦略の見直しが必要となっているとみられるが、こうした中での取締役会の機能発揮も論点となった。これについて立石氏は「オムロンの取締役会は企業理念にもあるソーシャルニーズの創造に対する戦略を確認して監督をしている」と現状を紹介。中田氏は「こういう時だからこそCEOと違う意見、視点を大事にしたい。多様な英知を結集して経営、執行にあたりたい。そういう意味でも社外取締役の意見は貴重だ」との考えを示した。

 最後に安田氏は、リーダーとしての課題や展望について質問。立石氏は「ミレニアム世代は社会的課題の解決に熱心。いかにそうした世代の意見を吸い上げ、どうコーポレートガバナンスに反映していくかを考えたい」と応えた。一方中田氏は「社会の変化とともに会社も変えていく必要がある。コーポレートガバナンスという“ツール”をしっかり活用していくことで、会社を変化にアジャストさせていきたい」と語った。

 斉藤氏は一連の議論踏まえ「経営者はものすごく勇気がいる仕事だと思う。企業は社会の中で富を生み出す役割を担っているので、利益というターゲットを追い求めるわけだが、そのプロセスの中でより社会や環境に貢献する、というのが企業経営だと思う。そういう意味では、経営者には倫理観、人類愛をベースにした責任感が強く求められるのではないか。そして、そういう意識を持った経営者が進んでゆけるように社外取締役はしっかりガイドする、そういう仕組みを多くの会社の中に作っていただきたい」と締めくくった。

 コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2020

 主催=一般社団法人 日本取締役協会

 後援=金融庁、経済産業省、法務省、東京都、東京証券取引所/日本取引所グループ

 協力=日本公認会計士協会、一般社団法人 日本IR協議会、アジア・コーポレートガバナンス協会

 データ分析協力=みさき投資株式会社

 審査委員の顔ぶれ

 委員長=斉藤惇氏(日本野球機構会長・プロ野球組織コミッショナー)委員=伊藤邦雄氏(一橋大学CFO教育研究センター長)、太田洋氏(西村あさひ法律事務所パートナー弁護士)、冨山和彦氏(経営共創基盤IGPIグループ会長、日本共創プラットフォーム代表取締役社長)、中神康議氏(みさき投資代表取締役社長)、井伊重之(産経新聞論説委員)

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