金融

ワクチンは負の連鎖断つ切り札になるのか、それとも「イタチごっこが続く」のか

 2020年10~12月期の実質国内総生産(GDP)が2四半期連続の高い成長率になったのは、政府が観光支援事業「Go To トラベル」などでてこ入れしたためだ。新型コロナウイルス禍による年前半の落ち込みを後半で87%まで挽回したが、経済活動の活性化は感染拡大につながり、21年1~3月期は再びマイナス成長に陥る見込み。週内にも始まるワクチン接種はこの“負のスパイラル”を断つ切り札になるだろうか。

 「ありがたい半面、事業者としては政府の決定に振り回されている感はある」

 仙台市の旅館経営者はこう漏らす。旅行代金を実質半額にするトラベル事業は需要喚起効果が大きい分だけ反動も強い。昨年末に全国で事業が停止された影響で、多くの旅館やホテルが休業を余儀なくされた。

 事業の継続にこだわった菅義偉政権は、感染「第3波」の到来後も一部の目的地を除外するなど段階的な見直しで切り抜けようと狙った。政府に翻弄された事業者には不満の声もある。

 実質GDPは20年1~3月、4~6月の2四半期で19年10~12月期と比べ48兆円(年率換算)落ち込んだものの、20年7~9月、10~12月の2四半期では42兆円回復した。トラベル事業などの経済対策は景気持ち直しに効果を上げた形だ。とはいえ、政策的に人の移動が促され、感染拡大の“急所”である飲食の機会が増加した側面は否めない。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員は「経済活動が活発化し過ぎたしわ寄せが、12月からの感染第3波につながった」と指摘。年明けの緊急事態宣言の再発令で21年1~3月期は前期比年率3.2%減のマイナス成長を予想し、「10~12月期が高い数字となったことは、必ずしも評価されない」と厳しい見方を示す。

 一方、近く接種が始まるコロナワクチンで感染を抑制できれば負のスパイラルは止まる。政府は地域を限定したトラベル事業の再開など景気刺激にかじを切るタイミングを模索する。

 ただ、既にワクチンが効きにくい変異種も発生し、「新たなワクチン開発とのイタチごっこが続く」(SMBC日興証券の末沢豪謙・金融財政アナリスト)と指摘される。次の感染再拡大に備え、医療提供体制を見直して病床の逼(ひっ)迫(ぱく)を防ぐなど、経済活動を止めずにコロナと共存できる社会の構築に向けた努力を続ける必要がある。 (田辺裕晶、岡田美月)

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