21世紀を拓く 知の創造者たち

東レ 革新素材の創出に挑戦 (1/2ページ)

 素材には、社会を変える力がある。こんなフレーズを前面に、最先端の素材を提供し続ける東レ。注目のカーボン繊維は飛行機から釣り竿まで、さまざまなモノに活用され、さまざまな産業にイノベーションをもたらしている。伝統分野であるナイロンなどに端を発するポリマー材料の分野でも、これまでの技術の蓄積と近年大きく進んだ分析技術などとの“化学反応”で新たな可能性が見え始めている。知を結集してポリマー構造の制御による“革新素材”の創出に挑戦する東レ化成品研究所の研究者に、ポリマー材料研究の最前線を聞いた。

 ■小林定之さん ナノへの極限追求

 ▽こばやし・さだゆき 化成品研究所研究主幹 工学博士

 ■浅野到さん 可能性広げる材料

 ▽あさの・いたる  化成品研究所主任研究員

 ■山中悠司さん 世界最高への挑戦

 ▽やまなか・ゆうじ 化成品研究所研究員

 --化成品研究所では“ポリマー・ケミカル・コンポジットの技術融合による革新素材の創出”をミッションに「重合・新規ポリマー」や「アロイ・コンポジット」「微粒子」といった要素技術の研究を手掛けているとのことですね。今回はこの中から、ナノアロイや微粒子の研究に挑むみなさんにお集まりいただきました。

 小林 30年にわたってポリマーアロイの研究を続けてきました。このポリマーアロイとは、複数のポリマーなどを混合することで新しい特性を持たせた高分子のことですが、この複数の物質は水と油のように混ざり合わないことが多くあります。そういう意味では、“これらをどう適切に混ぜ合わせるか”が大きなテーマになります。1990年以降は分析装置が高性能化したことで、より微細構造を持った“ナノアロイ”の研究が加速。目下の焦点は、このナノアロイによるタフでしなやかなポリアミドの開発などです。金属には合金というものがあります。たとえばジェラルミン。この合金を高機能化するためには混ぜる物質の混ぜ方とその構造が重要です。ポリマーにも同様のアプローチが可能だと考え、研究を続けています。実際に、ある程度の力をかけると破断するポリアミドが、“ナノアロイ”によりしなやかに伸び、大幅に強い力をかけても破断しない材料になるなどの成果を得ています。こうした素材は、自動車のバンパーといった衝撃吸収が求められる部材への利用が期待できそうです。

 山中 ポリフェニレンサルファイド(PPS)に世界最高レベルの柔軟性を持たせる、という研究をしています。PPSは耐熱性が高い半面で、柔軟性が低いという特徴があります。一方で、熱可塑性エラストマーは柔軟性があるものの、熱に弱い。こうした中で求められた開発ターゲットは、耐熱性がPPSと同等で、熱可塑性エラストマーに迫る柔軟性を持った素材を作ること。PPSにどう柔軟成分を混ぜるのかが課題です。単に多量の柔軟成分を溶融混練するとPPSの特徴が失われます。ところが、“ナノアロイ”技術を活用することで、ターゲットとなる材料ができました。PPSと同等の耐熱性や耐薬品性を維持しつつも高い柔軟性があり、加工性も検証しました。自動車用の配管などでの利用を目指しています。

 浅野 高融点ポリアミドを簡便にマイクロレベルの真球粒子にする新技術を創出しました。ポリアミドは化粧品の滑剤や3Dプリンターの造形用材料として使用されていますが、低融点の不定形状の粒子しかなく、流動性や均質充填(じゅうてん)性に優れ、高温での利用が可能な材質を実現するためには真球粒子化が求められていました。今回開発した技術で、3Dプリンターによる高耐熱、高強度造形物の製造が可能になると期待しています。

 --ポリマーアロイ自体は従来ありましたが、こうした次世代技術へと発展するきっかけはどこにあったのでしょうか

 小林 一つは電子顕微鏡をはじめとする分析機器の進歩です。これにより、従来は見えなかった微細な物質の状態を観測することが可能となりました。理論的にはこうすればいい、というのは以前からわかっていても、実際にはそれが分析できないものも多くありましたからね。

 山中 先輩が進めてきた過去の研究の成果は大きいと思います。今回の研究を進めるにあたり、過去の研究報告書を読み込み、課題解決の糸口を探しました。ナノアロイに向けた研究が脈々と続けられてきたことは大きな力です。膨大な知見があります。

 浅野 確かに過去の知見は大きな力です。研究を進めていく上ではいろいろな障害が出てきます。例えば実用化を目指すとなると、コストとのバランスをどうとるのか。そういったことにも過去の知見は示唆に富んでいます。もちろん、分析機器の進歩も重要です。新しい発見をもたらしますからね。

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