リーダーの視点 鶴田東洋彦が聞く

(1)OKI・鎌上信也社長 「社会の大丈夫」へ成長基盤固め

 「社会の大丈夫をつくっていく」-。新型コロナウイルス感染下の昨年10月にOKIが発表した「中期経営計画2022」のキーメッセージだ。自然災害や感染症拡大など社会課題の解決に取り組む姿勢を鮮明にした。持続可能な社会の実現に貢献するため、事業ポートフォリオの再構築やモノづくり基盤の強化などに挑む。鎌上信也社長は「今回の中計は成長への土台作り。創業150周年の2031年度を目指して投資を続ける」と強調。得意とする現場(エッジ)領域での技術力に磨きをかけ、社会インフラを支える企業として存在感を発揮し続ける。

 見えぬところで活躍

 --キーメッセージに込めた意味は

 「コロナの感染拡大で20年度から始まる中計の発表が昨年5月から10月に遅れる中で、『大丈夫』という言葉の重さを改めて実感した。何が良くて何が駄目なのか、暗中模索で先が見えずに生活を送らざるを得ないため『大丈夫』の言葉が飛び交ったわけだ。安全・安心・便利な製品・サービスの提供を通じて社会インフラや個人の生活を支えてきた企業としての存在意義、価値を発揮することを考えてメッセージをつくった」

 --そのためにOKIの強みを生かす

 「創業以来、ネットワーク技術をベースに社会インフラを支えてきた。加えて、端末機器の開発で自動化・省人化などの技術に強みを持ち、リアルの現場に置かれた端末機器は社会生活の隅々に広くインストールされている。130年を超える歴史の中で築き上げた強固な『顧客基盤』、エッジ領域での端末の『インストールベース』、そしてそれらを支える『技術力』が強みだ」

 「ただBtoC(対消費者)ではなくBtoB(対企業)の企業なので、消費者にはOKIの製品・ロゴが見えにくい。しかし、至る所にある。自然災害という社会課題に対しては、防災行政無線や消防無線といったシステムを自治体に提供、センサーを使った危機管理水位計なども納入している。見えないところで活躍しているのがOKIであり、中計を策定する中で社会インフラに貢献している企業であると再認識した。この強みを社会課題の解決に生かしていく」

 --中計の位置づけは

 「19年度までの前中計を振り返る中で認識した課題解決に加え、コロナがもたらすパラダイムシフトに対応しながら、30年のSDGs(持続可能な開発目標)のゴール、31年度の創業150周年を目指すための『成長への土台作り』と位置づけている。23年度からの次期中計は『成長への舵(かじ)を切る』、その次の26年度からは『新たな成長の実現』とした」

 「このため今回の中計は次の成長の準備段階であり、ゴールではない。普通は右肩上がりのバラ色の世界を目指すが、経営目標は若干増加するのみ(売上高は19年度の4572億円から22年度は4650億円)。とはいえ『もうけなくてもいい』というわけではない。3年間は700億~800億円を投資して基盤を固める」

 AIエッジに重点

 --成長に向けた構造改革として事業ポートフォリオの再構築を掲げた

 「昔は通信会社、今はATM(現金自動預払機)やプリンターの会社のイメージが強い。しかし世界の流れはキャッシュレス、ペーパーレス。ATMやプリンターが『なくなることはない』が、この既存ビジネスにしがみついていていいのか。『なくなる』という考えで、脱ATM・脱プリンターを加速していく」

 --具体的には

 「20年4月にハードウエアを中心とする3事業(メカトロ、プリンター、EMS=受託生産)を『コンポーネント&プラットフォーム事業本部』に再編した。21年4月にはプリンター事業を担ってきた子会社のOKIデータをOKI本体に統合する」

 「今までは通信、金融、官庁といった優良顧客に恵まれ、指示された製品を生産して納入すればよかった。しかしDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展で顧客も変革が求められ、従来の縦割りの事業体制では対応が難しい。3事業の技術などリソースを束ねて有効活用し、顧客の課題を解決する企業に変わる。OKIが得意とするのは社会課題が起きているエッジ領域での解決力。これを磨いていくため、現場で最適解を判断・処理する『AIエッジ(頭脳を持つ端末)』分野に重点投資していく」

 現場領域の技術力を磨き存在感

 --AIエッジ技術をどう生かすのか

 「『GAFA』と呼ばれる米巨大IT企業が世界を変え、クラウドでバーチャルの世界を制覇した。われわれにとって驚異だが、『GAFAと戦う』というと『どう戦うのか。無理』と100人中100人が答える。しかしGAFAだけでリアルな現場の課題を解決できるわけではない。大手の競合他社がクラウドへシフトする中、OKIはリアルな現場領域で勝負するしかない。そのためにはAIエッジであり、ネットワーク技術にたけ、モノづくりに強みを持ち、顧客との強い関係といった財産があってこそできる戦略だ。このため現場の課題を知るパートナーと協働・共創しながら現場へのAIエッジの提供にこだわっていく」

 ワンファクトリーに

 --モノづくり基盤の強化は

 「ハードの再編に合わせ、工場もプリンター専門、ATM専門といった縦割りではなく、最適な拠点で最適なモノづくりを行う“バーチャル One Factory(ワンファクトリー)”の実現に取り組む。少量多品種に強い、短納期が得意といった工場の特徴に合わせて全社的に使うことで強い技術力を集約し、顧客が求める製品をタイムリーかつ持続的に提供する体制を整える」

 「ハード人材も一つに束ね、700人の開発体制にする。柔軟にリソースを使うためだ。これまでは工場に一度配属されると、同じ場所で昇格し頂点が工場長だった。それでは外で戦えないと判断し、社長に就任した16年に国内の主要4工場の工場長を全て入れ替えた。本人も部下もびっくりしていたが、以前務めていた工場の良さを新たな工場に取り入れるという“いいとこ取り”が起きたほか、工場間の交流も生まれた。ベルリンの高い壁が壊れた。この経験がワンファクトリー構想につながった」

 --海外拠点は

 「海外生産拠点も見直す。1990~2000年代は『世界の工場』中国に進出した。賃金が日本の20分の1という低コストを生かして大量生産体制を築いた。しかし、これから注力するAIエッジなどは少量多品種生産。賃金格差も縮まった中国で生産しても今までのような収益化は難しい。日本で販売するものは日本で生産し、海外販売はチャイナ・プラスワンでモノづくりを強化する」

 --グループ共通基盤のコスト改革にも取り組む

 「共通機能の業務標準化を進め、業務の集約化・効率化といったシェアード化を進めることができれば投資しなくても効果は出て、収益に結びつく。柔軟な働き方によるオフィスの効率化にも乗り出す。一方で、商品開発、技術開発には惜しみなく投資する。成長につながるからで、歯を食いしばってでもやり抜く」

 --感染症拡大への対応は

 「これまで製品の自動化は、労働力不足という社会課題を解決するためだった。コロナ禍で『無人化・非接触・非対面』がキーワードとなったので、アプローチの仕方も変える。ATMも自動化に加え、金融機関の非対面・無人化要請に応じ進化する。さらにコロナ禍で『触りたくない。怖い』という声に応えるため、20年9月に非接触での画面操作を可能にする『ハイジニック タッチパネル』を開発、空港や金融機関などで実証実験を進めている」

 50年排出ゼロへ実践

 --ESG(環境・社会・企業統治)については

 「温暖化防止では、工場を含む全拠点で使用するエネルギーの実質CO2(二酸化炭素)排出量ゼロ化を50年の目標に掲げた。さらに社会インフラを支える製品などからもCO2の排出をなくす。できる範囲を目標にしがちだが、それは目標とはいわない。50年までまだ30年あるので、この間に技術も進化するはずだ。このためステージごとにプランをつくって実践していく」

 --成長戦略を担える人材の育成については

 「エッジ領域を担う要員の確保・増員に向け『AI人財』を育成する。他社はスーパースターをヘッドハンティングして人材強化に取り組むが、われわれは中央大と連携し『AI・データサイエンス社会実装ラボ』を開設した。AIの社会実装を実現できる実践力を持ったAI人財を育てる。必要な人材はAIの使い方など業務に落とし込む、いわば応用力。社内だけでは無理なので外部の力を借りることにした」

【プロフィル】鎌上信也

 かまがみ・しんや 山形大工学部卒。1981年沖電気工業(OKI)入社。2005年情報通信事業グループシステム機器カンパニーシステム機器開発本部長、11年執行役員、14年取締役常務執行役員、16年4月から現職。62歳。山形県出身。

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