東京海上日動火災保険 経営企画部部長兼サステナビリティ室長・小森純子氏に聞く
東京海上日動火災保険は事業と企業の社会的責任(CSR)の両面から「脱炭素」への取り組みを加速する。2月1日付で企業や自治体が脱炭素を目指す事業を支援するグループ横断の専門組織「グリーン・トランスフォーメーション(GX) タスクフォース」を立ち上げた。一方、創立120周年記念事業として1999年に開始したマングローブ植林事業は世界9カ国に広がり、「地球の未来にかける保険」として100年の事業継続を宣言する息の長い活動に据える。サステナビリティ室長を兼ねる小森純子経営企画部部長に脱炭素への取り組みを聞いた。
洋上風力事業を後押し
--新組織設置の狙いは
「新組織は、当社の商品開発や営業企画の部門、グループの東京海上日動リスクコンサルティングなどの専門性を持つメンバーで構成する。政府が2050年に温室効果ガス排出を実質ゼロとする目標を掲げ脱炭素が急がれるなか、損害保険会社として培ってきたノウハウや知見で脱炭素事業を支援する新たな取り組みに位置付けた」
--具体的な事業活動は
「再生可能エネルギーなどの事業リスクを補償する保険商品・サービスの開発・提供や、リスクコンサルティングで事業化を後押しする。当面は2013年から保険引受実績のある洋上風力発電が中核となる。これまでに欧米や台湾、国内の実証案件を含め43プロジェクトの実績があり、洋上風力発電が盛んな欧州と同等の課題をカバーできる体制を整えてきた」
--現在の推進体制は
「船舶営業部海洋開発室を中心に、組織横断的な『洋上風力推進タスクフォース』で取り組んできた。13人でスタートし、現在は米国法人HCC インターナショナル ホールディングスと昨年6月に買収した再生エネ事業向け保険総代理店GCube(ロンドン)を含む26部署90人のメンバーが案件に応じ機動的に対応している。こうした運営体制は新組織に組み込まれても反映される」
--国内での取り組みは
「昨年4月、国内向けに工事中や操業時のリスクを包括的に補償する『洋上風力発電向けパッケージ保険』を発売した。秋田県で進む国内初の商用洋上風力発電事業『秋田港・能代港洋上風力発電プロジェクト』の幹事引受がその第1弾となる。経済産業、国土交通両省の官民協議会が昨年12月にまとめた『洋上風力産業ビジョン案』は、洋上風力発電を再生エネの主力電源化への切り札に位置付け、政府も推進し、今後商用化が本格化する。保険なしで事業は融資を受けられず、その点で当社には一日の長がある」
植林活動9カ国に拡大
--植林事業の現状は
「マングローブは二酸化炭素(CO2)を吸収し、地球温暖化抑制や生物多様性の保全、さらに高波や津波、洪水から人々の生活を守る。ベトナムを手始めに21年間で東南アジア、南アジア、フィジーの9カ国に広げ、20年3月末で累計1万1240ヘクタールに達した。これは新幹線の東京-小倉間(1107.7キロメートル)に100メートル幅で植えたことになる。植林には保険契約者がWEB約款を希望するなどのペーパーレス化で得た紙資源使用量削減額の一部を寄付しており、お客さまとともに環境保護活動に取り組む『Green Gift』プロジェクトの柱に位置づけている」
--脱炭素の成果は
「マングローブ植林と自然エネルギー利用によるCO2固定・削減効果で、当社の事業活動で生じるCO2排出量を相殺する『カーボン・ニュートラル』を19年度まで11年連続、持ち株会社の東京海上ホールディングスは7年連続で達成している」(鈴木伸男)
【プロフィル】小森純子 こもり・じゅんこ 東大大学院修了。東京海上火災保険(現東京海上日動火災保険)入社。営業部門、法務部門などに従事し、2019年4月から現職。東京都出身。