産経新聞客員論説委員・五十嵐徹
みずほ銀行で2月28日、全国にあるATM(現金自動預払機)で大規模なシステム障害が発生し、ピーク時には約8割にあたる4300台で現金の引き出しなどができなくなった。
通帳やカードがのみ込まれたままになるケースも5000件を超えた。日曜日とはいえ、急に現金が必要で駆け込んだ人は大いにあせったことだろう。
問い合わせに対応する監視センターの職員も休日で少なく、ATMの前で4時間以上も足止めにあった顧客もいたという。全てが復旧するまで30時間もかかるなど、事後対応もお粗末極まりない。
信じがたいトラブル
システムにはトラブルがつきものだ。しかし、トラブルの規模といい、事後対応のもたつきぶりといい、にわかに信じがたい。しかも、みずほ銀の場合、第一勧業、富士、日本興業の旧3行再編による2002年4月のスタート時、そして11年3月の東日本大震災直後にも大規模なシステム障害を起こしている。
毎日2日付社説は「日本を代表するメガバンクとしてあり得ないずさんな危機管理だ」と批判したが、毎日に限らず、各紙とも、みずほ銀の対応に厳しい目を向けたのは当然だった。
産経2日付主張(社説)も「ATMは経済や社会を支える基盤インフラである。その機能が止まれば、暮らしに多大な影響を及ぼす。預金者の信頼を損ねる重大な障害だと厳しく認識しなくてはならない」と指摘した。
過去の大規模トラブルについては、経営統合でシステムが複雑化したことが一因とされる。みずほ銀は総額約4500億円を費やして19年7月に勘定系基幹システムを全面刷新したばかりだ。読売2日付社説は「それから2年もたたずに、障害が発生したことは深刻だ」と述べたが、顧客の多くは同じ思いだっただろう。
みずほ銀によれば、定期預金のデータ移行に伴う情報処理が月末だったことで想定の範囲を超え、システムの一部に負担が生じてオーバーフローしたという。業界の最先端を行くと自負していた新システムにあぐらをかいてはいなかったか。
日経2日付社説は「システムそのものの問題にも増して問われるのは、危機管理の姿勢だ。銀行の心臓部ともいえるシステムの管理・運用を経営陣がしっかり把握していたのか。いきさつを見ると疑問も残る」とした。
1日夜になってようやく記者会見に応じた藤原弘治頭取は「過去のシステム障害を踏まえ、安全で確実なシステムの構築に取り組んできたが、みずほ固有の要因がないか、もう一度点検する必要がある」と述べた。徹底検証が必要だろう。
麻生太郎金融担当相は2日、閣議後の記者会見で「顧客が迷惑するのが一番の問題だ。(金融の)プロとして、いかがなものかという感じはする」と語った。
みずほ銀のケースは、他行にとっても「他山の石」だ。顧客対応が後手に回った背景には、銀行業界が競って推し進めるリストラの影響が無視できない。
人口減少が加速し、低金利が続く環境では、銀行もこれまでのように、個人から預金を集め、企業に貸し出して利ザヤを稼ぐといった、規模に頼ったビジネスモデルでは生き残れなくなっている。
10年で来店4割減も
窓口やATMでの取引手数料の引き上げと合わせ、銀行は顧客をインターネットバンキングに誘導する戦略を積極的に進めている。最大のコスト要因である店舗や人件費の削減が狙いだ。
店舗に立ち寄らずとも取引ができるインターネットバンキングは、顧客にとってもメリットは大きい。メガバンクの中には過去10年で来店客が4割減少したとするデータもある。
ある民間シンクタンクの調査によると、銀行は経営の効率化に向けて店舗網の整理再編を本格化させている。大手行の中には今後数年間で店舗数を4割削減する計画もあるという。
社会のデジタル化に合わせ、銀行と顧客の接点は、今まで以上に店舗からネットへと移行していくのは間違いなかろう。
この結果、経費のかかるATMの台数も削られる方向だろうが、「ネット経由のサービスはATMを含めた銀行のシステムへの信頼があって初めて成り立つ」(日経社説)ことも忘れてはなるまい。
毎日社説は「経営効率化を最優先した結果、トラブル発生時の人繰りもつかない状況になったとすれば、本末転倒だ」と警鐘を鳴らしている。