スポーツbiz

ラグビーの街・釜石への思い 尚美学園大学教授・佐野慎輔

 あすは「3.11」、あの東日本大震災から10年を迎える。風化させてはならない記憶である。13日、岩手・釜石鵜住居(うのすまい)復興スタジアムで開催予定のラグビー・トップチャレンジリーグの釜石シーウェイブス対近鉄ライナーズ戦を観戦するつもりでいた。10年たった釜石の空気にも触れたい。

 しかし、新型コロナウイルス禍による1都3県の緊急事態宣言が延長。むやみな訪問も迷惑だろうと止めることにした。でも様子は気になる。釜石の友人に電話した。「元気?」というあいさつもそこそこに、「娘たちが就職して肩の荷をおろしました」と声が返ってきた。

 W杯遺産継承に尽力

 あの日、彼は津波で母を亡くし、父と妻、そして一番下の娘を海にさらわれた。悲しみに沈むまもなく、残された多感な娘二人を男手ひとつで育ててきた。娘たちはそれぞれオーストラリア留学と東京の大学を終えて社会に出た。妻に誓った子育ての約束を果たした安堵(あんど)感が、電話口から伝わった。10年の歳月を思う。

 彼、浜登寿雄さんはラグビーワールドカップ(W杯)釜石開催に大きな足跡を残した。シーウェイブスRFC事務局長を務めた縁から会場招致の先頭に立ち、2015年3月、試合会場に決まると開催に尽力。19年のW杯フィジー対ウルグアイ戦では試合前のコイントス役を務めた。昨年、W杯遺産を継承するべく結成された「ラグビー応援団」の副団長に就任。「ラグビーのまち釜石」を発信し続ける。

 大きなイベントは開催後の活動が重要となる。市や町、村に文化としてのスポーツを定着させ、知名度を地域活性化につなげるためには大会遺産を育てていかなければならない。

 釜石市は2020東京五輪・パラリンピックのホストタウンに登録。「復興ありがとうホストタウン」としてオーストラリアを相手国、ラグビーを対象競技に交流を深めている。

 交流のタネを育てる

 交流は「3.11」当時、シーウェイブスに在籍していた元オーストラリア代表のスコット・ファーディー選手がきっかけだった。在日大使館の避難勧奨を断り、釜石でボランティア活動を続けた。帰国後、釜石の小、中学生や高校生を受け入れ、交流が始まった。15年だから、ホストタウン登録よりも古い。

 互いの国を訪問、ラグビーの試合をし、文化を学ぶ。釜石では防災学習も行った。東京大会でもオーストラリア選手や関係者との交流が計画されている。

 しかし、コロナ禍で実現は難しい。いや開催すらコロナ次第だ。東京大会のホストタウンには全国517自治体が登録、事前合宿の準備など交流計画を進めているが、思うような成果も望めない状況下、断念する自治体も出始めた。今後、活動を諦める自治体も増えるだろう。何より、世論の支持も低い。

 「釜石も開催まではそうでした」と浜登さんは言う。「でもやってみたら、笑顔と活気という大きな力をもらいました」

 いま市をあげてシーウェイブスの新リーグ参画に挑む。W杯を開催した釜石と、不確定な東京大会とでは状況も異なる。ただホストタウンに登録した自治体には交流というタネを育て、開花させてもらいたい。

【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年富山県高岡市生まれ。早大卒。サンケイスポーツ代表、産経新聞編集局次長兼運動部長などを経て産経新聞客員論説委員。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大および立教大兼任講師などを務める。専門はスポーツメディア論、スポーツ政策とスポーツ史。著書に『嘉納治五郎』『中村裕』『スポーツと地方創生』(共著)など多数。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus