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企業に求められる、被災後の社会を支える覚悟 不断の供給網強化

 自動車をはじめとする日本の製造業は、東日本大震災を教訓に、有事でも生産を維持するための創意工夫を重ねてきた。震災で弱点があらわになったサプライチェーン(供給網)は、この10年間で強化された。ただ企業に求められるのは、利潤ばかりではない。その活動は、東北をはじめとする地域経済の振興や雇用にもつながる。社会を支えていく覚悟が、改めて企業に求められている。

 「自動車産業は一社一社競争はしているが、みんなで支え合っている産業だと感じている」

 11日にオンライン上で行われた日本自動車工業会の定例記者会見。豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は、震災などで供給網維持に取り組んだ経験を踏まえてそう話した。

 震災では、半導体を生産するルネサスエレクトロニクス那珂工場(茨城県ひたちなか市)が停止し、自動車生産に大打撃を与えた。自動車各社は同工場に応援部隊を派遣。自社の利益を後回しにし、「オールジャパン」で復旧にあたった。

 おかげで予定より3カ月早く生産再開にこぎつけたが、このときの経験は災害対策の不備を痛感するきっかけにもなった。

 ルネサスは震災以降、国内工場の耐震補強などに100億円規模の資金を投じてきた。その結果、震度6の地震が起きても30日以内で生産再開できるようになったという。

 10年間の取り組みの成果は、2月13日に福島県沖で発生したマグニチュード7・3の地震でも表れた。トヨタでは、部材調達先の状況把握にかかった期間が震災時の約3週間から1日程度に大幅短縮された。震災2年後に稼働し、2次、3次の調達先を含む状況を把握できる情報システム「レスキュー」のおかげだ。

 トヨタはほかにも調達先を分散させたほか、かさばらず、劣化しにくい半導体については在庫に余裕を持たせるよう改めた。

 東北は今や、自動車の一大生産拠点に成長した。震災以降だけで自動車産業の雇用は約8千人、自動車部品の出荷額は8千億円も増えた。福島県浪江町では昨年、世界最大級の水素製造拠点が稼働。自動車業界も、同県内で行われる水素社会を見据えた実証実験に深くかかわる方針だ。

 ただ、課題は多い。自動車では約3万点もの部品が使われている上、調達先は海外に広がっており、把握は難しくなる一方だ。また、日本メーカーは、在庫管理の合理化などを徹底することで、優位性を維持してきた。在庫を増やすといった供給網の有事対応を強化すれば、短期的な利益は圧縮されてしまう。

 「石にかじりついて、日本の雇用やものづくりの基盤を守ってきた」(豊田氏)という企業の自負は、地道な努力の継続なしに維持できない。(井田通人)

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