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製造業の調達にデジタル革命 先駆者・ミスミに続け、最適な発注先を自動選定  

 モノづくりに不可欠な部品調達でデジタル革命が進行している。機械大手のミスミグループ本社が2016年に部品調達工程を90%以上短縮する電子プラットフォーム「meviy(メヴィー)」を立ち上げて以来、非効率な調達業務を見直す完成品メーカーが増加。市場拡大を見越してベンチャー企業などの参入が相次ぐ。

 労働生産性を向上

 製造業は生産年齢人口の減少と働き方改革による残業時間制限という構造問題を抱える。解決するには労働生産性の向上が欠かせず、設計はコンピューターを利用した3次元CADを使い、生産は無人化を推進、販売は電子商取引を導入してきた。

 残るはメーカーにとってコストの3分の2を占める部品調達だ。今でも紙の図面を作成してファクスで部品メーカーに送る。特に少量多品種分野では特注品を発注することが多く、価格、品質、納期で納得できる調達先を探し出すのは難しい。

 このボトルネックを解消する動きが本格化してきた。市場調査会社テクノ・システム・リサーチ(東京都千代田区)がまとめたオンライン機械部品調達サービスを利用するユーザー数は20年に9万3400と前年比53%増加した。22年には14万3700まで膨らむと予想する。

 米中貿易摩擦や新型コロナウイルスの流行でグローバルサプライチェーンを見直す動きも加わり、部品調達の改革に関心が高まっているからだ。同社の浅沼邦明アシスタントディレクターは「国をまたぐ部品調達はリスクヘッジの観点から発注先の見直しや緊急時の対応が不可欠。アナログからデジタルへの流れは加速する」と指摘する。

 この先頭を走るのがミスミ。20年にシェア50%を超えた。3次元設計データをアップロードするだけで人工知能(AI)が即時に価格と納期を回答、加工から出荷まで最短即日を実現する。納期や品質をコントロールできる自社生産の強みを発揮、これまで数週間かかっていた部品調達を大幅に短縮した。

 作図不要、見積もり不要で確実短納期という同社が起こしたデジタル革命が完成品メーカーに支持され、20年末にメヴィーのユーザー数は5万を突破した。メヴィー事業を牽引(けんいん)してきた吉田光伸常務執行役員は「労働生産性が圧倒的に高まるので不足する人手と時間を補える。空いた時間を創造的な仕事に回せる」とメリットを強調する。

 ベンチャーも参入

 市場の成長性に着目し参入する企業も相次ぐ。ベンチャーならではの「持たざる強み」を生かしシェアを高めているのが17年創業のキャディ(東京都台東区)。受発注双方が納得できるよう、完成品メーカーがアップロードしたCADデータから、その部品生産を得意とする加工会社を自動的に選定する電子プラットフォームを立ち上げた。

 完成品メーカーは見積もりを依頼しても多くの場合、最安値を提示した会社に発注する。なじみのない取引先から仕入れることになれば不具合を起こしかねない。一方、部品加工会社は時間をかけて見積もりを行っても受注を逃す。下請けなので赤字覚悟で受注することもある。

 こうした現状を知る同社の加藤勇志郎社長は「受発注双方の面倒を取り除けば付加価値の高い仕事に注力できる」と言い切る。今では全国600超の加工会社と提携、発注側も産業機械を中心に6000社に達した。事業拡大に伴い物流機能を強化するため昨年10月、関東の物流拠点を千葉県船橋市に移転した。

 ネットワークに加わった機械加工の伸和製作所(富山県立山町)の山崎大介社長は「毎月、新しい設計データが送られてくる。食品周辺など取引先が広がり助かっている」と喜ぶ。その上で「新たな図面と向き合うことで現場は刺激を受け、技術力の向上につながる。まさにポテンシャルの解放」と話す。

 発注側は原価を下げられるだけでなく、キャディが部品を検査し品質保証した上で納入するため調達先の検索・交渉・監督コストを削減できる。

 「調達部門をプロフィットセンターにする」。18年に創業したA1A(東京都千代田区)の松原脩平代表取締役はこう意気込む。

 同社は見積もり査定工数を大幅に削減するクラウドサービスを開発。完成品メーカーは、統一フォーマットの見積書に記入された加工会社の回答状況を比べることで最適な調達先を選べる。過去の見積もりデータも保管でき、価格推移や類似品との比較分析も可能だ。

 見積もり査定業務を行う調達担当者の負担が減り、より付加価値の高い仕事に取り組める。さらに期待されるのが調達部門の上流工程への参画だ。部品の品質やコストの8割は企画から設計までに決まる。ここに取引先などとの接触頻度が高く情報収集力に優れる調達部門が加われば品質、コスト、納期で設計変更の自由度が高まり、製品の競争力向上を図れる。

 ミスミの吉田氏は「デジタル革命で調達の概念を変える。しかし1社では必要性は伝わらない」と他社の参入を歓迎する。参入企業が切磋琢磨(せっさたくま)しながらサービス領域を広げることで製造業の労働生産性が高まる。「調達を変えることでモノづくりは元気になる。その手伝いがわれわれの役割」と吉田氏は言う。(松岡健夫)

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