高論卓説

もはや心肺停止に近い観光業 3密避ける「賢い旅」でお金を使おう

 いよいよコロナワクチンの接種も始まった。まだまだ油断は禁物だが、新型コロナウイルスの感染拡大も少しずつ落ち着きを見せている。日本を、そして世界を震撼(しんかん)させたコロナ禍も必ずいつか収束する。(平松庚三)

 緊急事態宣言は終了したとはいえ、今後しばらくは宣言とは関係なくマスクに手洗いとうがいは続ける必要がある。しばらくとは、あと数カ月なのか、1年なのか、2年なのか、それは分からない。

 コロナ禍はいつか収まるだろうが地元経済が瀕死(ひんし)の状態だ。新型コロナとの闘いに勝っても地元が死んではわれわれの負け。地域の商いを守れなければわれわれも死ぬ。特に地域で地元に密着している商店街や繁華街は既に危篤状態であり、地元経済に大きな影響を及ぼす観光業はもはや心肺停止に近い。

 経済を復活させるには、人を動かし消費活動を喚起して金を回すしかない。だが、人を動かすことには感染拡大の大きなリスクが伴う。人を動かし金も回す。相反する行為を続けながら新型コロナも抑え込む。

 われわれはこれから前代未聞で未曾有の二律背反に挑戦せねばならない。人を動かす最強のエンジンは観光だ。観光は世界最大の産業であり平和産業でもある。観光業は周りの関連産業を含めると雇用者数で世界一を誇る。

 人が旅行することにより宿泊、運輸、金融、飲食、エンターテインメント、サービス、その他農業・漁業にまで広範囲にそれぞれの経済圏を巻き込み、直接・間接的に大きな影響を与える。

 国連世界観光機関(UNWTO)によると、世界では2018年に年間14億人が観光で旅行し188兆円を消費した。国内でも観光庁の19年の統計では日本人による国内旅行市場は22兆円と巨大だ。しかし、いくら市場規模が巨大であっても、人が動かなければ1銭の経済効果もない。

 観光業界は多種多様のさまざまな関連産業の組み合わせで構成されている。旅行者が航空機や鉄道を使い、ホテルや旅館に宿泊して金を落とすことにより、航空会社やホテルばかりでなく、その周りの多くのサプライヤーも潤う。金は経済社会を動かす最も重要な血液でありエネルギーである。

 地域経済を復活させるには血液の量を増やし流れを加速することにある。過去1年、コロナ禍での自粛生活を経験し、われわれはどのくらい賢くなったのかが今後試される。

 まさか「Go To トラベル」を再開すれば、宴会付きの大騒ぎ旅行が復活するとは思わないが、これからの旅は単なる物見遊山ではなく、結果として、「重篤経済の再生」または、「頑張っている中小事業者救済」を旅行目的の一端にしたいものだ。

 新型コロナとの戦いが完全に収束する前に旅に出ることには抵抗があるだろう。友人や家族から反対されるかもしれない。しかしコロナとの戦いは長期戦だ。将来、新型コロナに勝ったとしても、経済が破綻し多くの経営者や従業員が職を失う。これだけは絶対に避けたい。新しい旅のキーワードは「賢い旅」だ。

 どうすれば「3密」を避け、ソーシャルディスタンスを取りながら旅を楽しむことができるか。自分自身で思考しながらメリハリのある旅に出る。一人旅、二人旅あるいは家族旅行、小グループでの旅行企画が今後のキモだ。「倹約は善、浪費は悪」と言われてきたが、今は別。浪費が善になることもある。賢い旅に出て、賢くお金を使おう。

【プロフィル】平松庚三 ひらまつ・こうぞう 実業家。アメリカン大学卒。ソニーを経て、アメリカン・エキスプレス副社長、AOLジャパン社長、弥生社長、ライブドア社長などを歴任。2008年から小僧com社長。他にも各種企業の社外取締役など。北海道出身。

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