緊急事態宣言が22日に2カ月半ぶりに全面解除となり、街の人出も増えてきたが、新型コロナウイルスの収束は見えない。新型コロナの感染拡大と全国的対策が始まって既に1年1カ月たった。マクロ経済的には大変なことになったが、半面、非常時でなければ実現しなかった前向きの変化が一部で生じているのも事実である。新型コロナ感染症対策として、「ステイホーム」や「ソーシャルディスタンス」が推奨された結果、こうした状況に対応すべく、技術革新の進展や個人生活の変化が実現し、またそれに伴い一部関連業界の収益増加をもたらしている。
感染症対策として非接触・抗菌をテーマにさまざまな分野で技術革新が急速に進んでいる。例えば日本の大手電機メーカーは、世界最高水準の顔・虹彩認証技術を生かし、来店客がマスクをしたまま購入できるシステムを開発した。店舗での完全非接触の決済サービスなどが提供できる。あるファストフードチェーンでは完全非接触のサービスと支払いができる新型店舗をオープンしている。
素材分野では付着したウイルスを99%減らせる間仕切り用のガラスや、赤外線を通し板越しに検温できる樹脂製の仕切り板が素材メーカーによって開発されている。抗ウイルス機能を持つシャツも大手繊維メーカーが開発、販売している。
今後、自動車の内装材では抗菌・除菌素材へのニーズが増加することが期待され、新素材の開発が進んでいる。住設部門では需要増大に伴い自動水栓や温水洗浄トイレの高度化が続けられている。非接触・抗菌の分野では、日本人の清潔志向を反映し、斬新で高性能な新製品が続出。日本企業の強い分野であるので、世界市場において今後日本企業の活躍が期待されるところである。
個人生活分野では在宅時間が増加したため、食品や日用品と家具の需要が増大し、小売り・通販業界のEC(電子商取引)技術とシステムの革新が進んでいる。不要不急の外出を控えたため、これまで惰性や慣習で続いてきた人付き合いや行事などが見直された結果、家計負担が軽減され、個人生活の見直しと合理化が期せずして進む。
企業ではコロナ禍で売り上げが減少しても、接待交際費と出張旅費などが大幅に削減された結果、販管費が大きく減少し、減収増益となるケースが続出している。在宅勤務割合が上がっても、ITに投資しアバター(分身)の利用などで生産性を高める努力をしている企業もある。こうした動きのため、運輸、IT、医療機器、家具、薬品、スーパーマーケットの業界が新型コロナの拡大に伴い増益傾向となっている。
外出自粛により、全国の17~19歳の男女の25%が読書時間を増やしているという統計が昨年10月発表されており、個人生活にとって好ましい変化もうかがえる。
一方、新型コロナ感染症の発生原因については諸説があり、人類にとって災厄には違いないが、その致死率は全世界で0.14%と季節性インフルエンザより低いと、昨年10月にWHO(世界保健機関)が認めている。
今回のコロナ禍の前向きの変化として、技術革新の急速な進展と人間関係の希薄化とのバランスという問題も残るが、生活合理化のメリットは無視できないと思う。
杉山仁(すぎやま・ひとし) JPリサーチ&コンサルティング顧問。一橋大卒、1972年、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。米英勤務11年。海外M&Aと買収後経営に精通する。経済産業省の「我が国企業による海外M&A研究会報告書」作成に有識者委員として参加。著書に「日本一わかりやすい海外M&A入門」のほか、M&Aと買収後経営に関する論文執筆や講演多数。