高論卓説

ハラスメントに陥らない方法 指示・助言、意欲高まる要素見極めを

 卓球元日本代表の福原愛さんの離婚騒動が勃発した。引き金になった夫や義母からの言動の一つが、泣いている福原さんに対して、義母が「あなたには感謝している。あなたが来て家は潤った。あなたは、わが家の金を生む鶏だ」というものだ。福原さんが夫に「その言葉にショックを受けた」と言うと、夫は「なんで駄目なの。君の能力が高いということだよ」と返したという。

 義母は、福原さんを慰めたり、感謝の念を伝えようとしただけで、夫は、能力の高さを賛辞しただけなのかもしれない。仮に、義母や夫には、福原さんに対する悪気がなかったとしても、それらのフレーズが福原さんにはハラスメントとして受け止められた。

 こうした行き違いは、ビジネスシーンでも起きてしまう。上司や先輩がよかれと思って言ったことが、部下や後輩からは不快に思われたり、ハラスメントだと認識されたりしてしまう。そして、「人それぞれの受け止め方が異なるので防ぎようがない」と諦めてしまったり、「もう、余計なことは、何も言わないに限る」と、コミュニケーションそのものを回避してしまったりする。

 しかし、ハラスメントは相当程度、未然に防ぐことができる。相手のモチベーションファクターを見極めて、それに合わせたフレーズを繰り出すスキルを用いればよい。モチベーションファクターとは、人それぞれが持つ意欲を高める要素で、チャレンジすることで意欲が高まる目標達成、オーナーシップを発揮することで意欲が高まる自律裁量、責任を果たすことで意欲が高まる地位権限、さらに他者協調、安定保障、公私調和の6つに分かれる。

 前の3つを牽引(けんいん)志向、後ろの3つを調和志向と呼んでいるが、日本のビジネスパーソンの牽引志向と調和志向は半々で、アジアでは6:4で牽引志向が強い。

 例えば、安定保障で心配性の上司が、自律裁量の部下に対して「あれをやったか、これをやったか」「あれもチェックする、これもチェックする」と朝、昼、晩、世話を焼くと、上司には悪気はなくても、部下からみると、煩わしい、やりたいようにやらせてくれと思われ、それが高じると、上司は嫌がらせをしているのではないか、ハラスメントだと思われてしまう。

 これを防ぐには、自律裁量の部下には、上司の自分のモチベーションファクターが何であろうと、「任せたぞ」「やりたいようにやってみろ」というように、部下のモチベーションファクターに合わせたフレーズを繰り出す。部下に気持ちよく仕事に取り組んでもらえるようになり、生産性が上がる。

 しかし、同じ「任せたぞ」「やりたいようにやってみろ」というフレーズを、心配性の安定保障の部下にしてしまうと、部下からは「私の心配を分かってくれていない」「放置されて無責任だ」と思われて問題になってしまう。つまり、相手のモチベーションファクターに合わせた指示や助言をすることで、相当程度、ハラスメントを回避できるのだ。

 福原さんの義母や夫は、他の人のできないことを成し遂げたという経済的な成功に着目して、目標達成のモチベーションファクターのフレーズを繰り出した。選手時代であればそのフレーズは福原さんに効いたかもしれないが、福原さんが家族との心の通い合いや信頼関係に着目した他者協調を求めていたとすれば、効き目があるどころか、抵抗感を与えてしまったのだ。

 山口博(やまぐち・ひろし) モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年モチベーションファクターを設立。横浜国大非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。

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