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EC遅れ響く老舗アパレル ワールド、1年で2度リストラ

 アパレル大手、ワールドの苦境が続いている。昨夏のリストラからわずか半年で、再度の構造改革を迫られた。アパレル業界では老舗のレナウンが経営破綻、オンワードホールディングスなど大手は軒並み赤字。新型コロナウイルスはかつてないサバイバル時代をもたらした。ワールドの現状からは、これまで置き去りにしてきた業界の悪弊が垣間見える。

 「昨年8月時点ではこれほどまでの状況になるとは予測できなかった」

 ワールドIR室の担当者は、1年で2度のリストラに頭を抱える。コロナによる外出自粛や在宅勤務の増加で、主力の百貨店売り上げは低迷。今後も状況の改善は見込みにくいとして追加のリストラに踏み切った。

 ワールドは昨年8月、250店舗の閉鎖と5ブランドの終了、最終的に294人が応募した早期退職を実施。そして2月、2021年度中に450店舗を閉鎖、売り上げ規模の小さい「ジェット」など百貨店への展開を中心としてきた7ブランドを終了し、100人規模となる追加の早期退職募集も決めた。

 2020年4~12月期連結決算では78億円の最終赤字(前年同期は118億円の黒字)に転落している。

 この十数年、ワールドは構造改革を繰り返してきた。05年、長期的な構造改革に取り組む目的でMBO(経営陣による自社買収)を行い上場を廃止。15年にはスーパーの長崎屋や英会話教室GABAなどの社長を務めた上山健二氏が創業家以外で初の社長に就き、不採算の約500店舗閉鎖、計13ブランドを廃止した。

 構造改革の効果で利益は改善したが、「ユニクロ」などのファストファッションや「ZOZO」などインターネット通販の台頭で売り上げの伸び悩みは続く。18年には13年ぶりに東京証券取引所1部へ再上場したが、販売は上向かないまま、コロナ禍が襲った。

 コロナ禍で顕在化

 アパレル業界では、老舗メーカーのレナウンが民事再生法の適用を申請し、その後もスポンサーが見つからず昨秋に破産開始が決定。オンワードや三陽商会も直近の決算で最終赤字を計上した。いずれも百貨店や都市部店舗での低迷が響いている。

 だが業界内からは「コロナだけが原因といえるのか」との声もあがる。「コロナ前から衰退傾向にあり、むしろコロナ禍で長年放置してきた『病巣』が一気に顕在化しただけだ」(関係者)。

 1つが、デジタル化への対応の遅れだ。若者を中心に通販サイトやアプリを通じた購入が増えているにも関わらず、百貨店やショッピングセンターなど実店舗依存の販売手法が主流になっている。

 ワールドの売り上げに対する電子商取引(EC)販売の比率は20%程度。経営破綻したレナウンはわずか3%ほどだった。

 ワールドは「ECでは年末年始に許容量を超えた発注が舞い込み、配送に2週間かかるなど大幅な出荷遅れが出た」とし「商品もオフィスワーカー向けが中心でコロナ時代にマッチしておらず、急激な変化への対応が遅れている」とECの販売態勢の不備を認める。

 もう1つの問題点について、ワールドは「コロナの前から続くオーバーストア(店舗過剰)、オーバーサプライ(供給過剰)」をあげる。

 アパレル向けのクラウドサービスなどを手がけるフルカイテン(大阪市)の瀬川直寛社長は、アパレル業界が長年抱える過剰在庫問題を指摘。製造コストを下げるため中国などに大量発注する一方、国内市場は頭打ちで売れ残りが増える構造になっているという。

 「トレンド商材のため翌年に商品を持ち越すこともできず、二束三文で輸出したり焼却処分したりする。家賃や人件費など固定費負担の大きい実店舗の売り上げを維持するため、在庫を簡単に減らせない悪循環に陥っている」

 余剰在庫の解決模索

 日本繊維輸入組合が生産動態統計や貿易統計を基に推計した衣類の国内供給量は、19年で約39億8400万点。この20年ほど年間40億点前後で推移している。国内のアパレル市場はバブル期の1991年前後、15兆円程度に成長したものの、その後は減少。現在は10兆円程度まで縮小しているが、衣類の供給量は横ばいが続く。販売量は減っているのに商品の供給量は減っていないといういびつな構造だ。

 民間調査会社の矢野経済研究所は「一般にアパレル業界では国内供給量の6割程度が購買されれば大成功といわれており、残りは不良在庫になる」と指摘。フルカイテンの瀬川社長も「サステナビリティ(持続可能性)の観点からも問題」と話す。

 業界側も模索を始めた。ワールドは衣料品の余剰在庫を仕入れ、低価格で販売する「オフプライスストア」と呼ばれる店舗を増やしている。他社ブランドも扱う点が特徴で「コロナ禍でも業績は堅調に推移」(広報担当者)。今月、5店目の店舗を茨城県に出店した。「アパレルメーカーが店舗を構える以上、どうしても余剰在庫が出る。企業の枠を越え解決を図っている」としている。(田村慶子)

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