海外には商品開発のヒントがある。当社が2014年に開発した内照式の布看板「ルーファス」(特許取得済み)は、筆者がドイツに行ったとき、大型看板の印刷面の交換作業を店員さんがカーテンを付け替えるように行っていたことがヒントになった。日本では、その作業を専門の職人が行う。「私たちの仕事がなくなってしまう」と危機感を覚えてリサーチし、日本で普及していない原因を突き止めた。(リディアワークス代表取締役・小林史人)
一方、海外では総じて商品アイテム数が少なく、日本のようなバリエーションがない。海外で日本製品の違いを理解し、購入している人は限られているので、出し方、伝え方を変えれば、日本のこだわりの商品をもっと理解してもらえるようになるだろう。
筆者は08年から世界20カ国以上の美術館やギャラリー、宮殿で著名アーティスト作品の設営を行った。街中や展示会を訪れると、見たことのないような商品がたくさんある。その一つが布の看板だった。日本でリサーチしたら、入手することもできた。「なぜ、これほど良い商品が日本で普及しないのか」を探ったら、課題がみえてきた。
最も大きな原因は、印刷した布をアルミ枠にはめ込むときの“ゆるみ”“たわみ”“シワ”だった。欧米では町と町の間が離れており、印刷看板の専門業者も少ないので、素人でも張りやすい布看板を選択し、多少のたわみやシワには目をつぶる。しかし、顧客の品質要求が高い日本では、そうはいかない。そこで、ラバーとアルミ枠に凹凸を付けることでかみ合うようにし、取り付け時に展張できる技術を開発したわけだ。
一方、海外で材料や道具を購入するときは、大型のホームセンターや専門店が駅前にないので、街の小さい工具店に行くことが多い。すると、例えば両面テープは3種類しかない。これに対して、日本のホームセンターでは両面テープだけで数十種類も陳列されている。粘着力の強弱、接着するものの下地や材質、耐熱や耐久性によっても分類されている。専門知識がなければ選択肢は少ない方が選びやすいが、専門知識があれば不便と思うに違いない。
知っている会社名や商品ブランドを選ぶのは無難で、安定感がある。その隣に知らない社名の商品ブランドがあった場合、小売店は何かしらの良い特徴を評価して売っているのだろう。消費者には、その良い特徴と同時に、どんな体験ができるのかが分からなければ選ばれない。それを訴求できれば、日本製品のビジネスチャンスが生まれる。
【プロフィル】小林史人 こばやし・ふみと 本所高卒。山崎組、京王運輸、プロラボを経て2003年に家業のコバヤシ看板入社。10年リディアワークスを設立。誰でも上手に張れて環境にも優しい布看板「ルーファス」を開発し2019グッドデザイン賞ベスト100、2020年はばたく中小企業300社(経産省)選定。20年には除菌フィルム「キルウイルス」を開発し販売会社ウイルスケア設立。42歳。東京都出身。